研究代表者が最近明らかにしたサンプル零点のサンプル周期に対するテイラー展開式を、数式処理ソフトウエアを援用した計算および理論解析によりさらに詳しく調べ、制御対象の伝達関数の相対次数n-m=2の場合についてそのテイラー展開式が非常に簡単になることが明らかになった。このことから、相対次数n-m=2の場合はある一定の条件のもとテイラー展開の高次項を無視できることが分かり、テイラー展開2次項までの近似式にもとづいてサンプル零点を望みの位置に再配置する技法を開発した。つぎに、具体的な応用例としてDCモータの角度制御系実験装置を製作し、サンプル値再配置によるフィードフォワード制御・モデル追従制御・適応制御系設計の効果を検証する実験をおこなった。まず、位相進み・遅れアナログ回路を直列結合する方法によりサンプル値を再配置し、フィードフォワード制御実験を行ったところ良好な結果を得た。さらにこの位相進み・遅れアナログ回路を、高速なサンプル周期のディジタル制御器に置き換えて実験を行ったところ同様の結果が得られることを確認した。これより、マルチレートのディジタル制御系で不安定零点の問題を回避する方法が開発できたことになる。つづいて、このマルチレートDCモータ角度制御系にフィードバックを併用するモデル追従制御を適用したところ、高精度の追従が実現できていることが確認された。つぎに、このモデル追従制御系の制御器パラメータをオンラインで調整するモデル規範型適応制御(MRACS)へ拡張して、シミュレーションおよび実機実験を行ったところ、パラメータ調整則に値の下限を設けるなどの工夫を行うと安定に動作することが確認できた。サンプル零点を再配置せずにMRACSを適用するとシミュレーションで収束させることが出来なかったことから、本研究で開発した再配置法が有効であることが検証できた。
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