平成22年竣工の羽田空港D滑走路島は埋立桟橋組合せ構造であり、ジャケット式桟橋構造をはじめとして基盤施設の主要構造物等に大量の鋼材を使用していることが特徴の一つである。これらの鋼構造物は、海洋環境という厳しい腐食環境下に曝されることから、ライフサイクルを通じて鋼材の腐食対策が十分になされることが必要である。また、これらの腐食対策が設計供用期間である100年間有効に機能させるためには、腐食問題に対する維持管理技術を早急に確立することが重要である。本研究では上記の要請に答え問題点を克服するために羽田D滑走路に代表される巨大海洋構造物の数値解析援用防食モニタリング技術を開発した。 具体的にはジャケット式桟橋構造物周辺の電位測定値から,犠牲陽極の電流量および構造物表面電位を推定する逆解析手法を開発した.本手法ではまず,構造物形状情報等から数値解析モデルを作成し,犠牲陽極からの電流量をある値に仮定した際の,電位応答を計算する.その際、効率的に計算を行う手法を開発した。そして,電位の測定値と計算値が合うように電流量を調節し,2つの値が最も合う際の電流量を推定値とする.しかし複雑な形状をした鋼構造物においては,周辺における電位測定値に対して,各境界からの電流量を一意に定めることが困難である.そこでベイズ推定法を用いて,現場の測定値と事前に蓄積された技術的知見を組み合わせることにより,推定精度を向上させた.また,実際の港湾施設における検証実験を実施し,手法の有効性を示した.さらに,電位測定を効率的に行える装置を開発し、羽田空港D 滑走路桟橋部ジャケットにおける測定を実施し,天板内からの電位測定により犠牲陽極電流量が同定可能であることを示した.本手法により,ジャケット式桟橋構造物の防食状態を簡易な検査で推定することが可能となり,簡易検査の置き換えや,ダイバー投入頻度の低減が見込める。
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