既設コンクリートに見られる異常劣化の調査を行った。本年度は,対象をSダム監査廊に絞って各種調査を行った。 その結果,ダム本体下流部の減勢工付近に放水されてくる水が極めて濁っている状況が確認できた。本来は下流への放水はなされていない期間であったが,上流のゲートが破損していることから漏水が生じ,それが下流へ放水される状態になっている。減勢工付近ではこの時期(秋期)特有のわずかな硫黄臭が発生しており,ダム湖の中間層付近で堆積物が腐食して硫酸が発生していることが予測された。リバウンドハンマーによる推定圧縮強度は,ダム湖側の側壁および床面のいずれも強度面では健全な状態であった。なお,固有振動数の測定結果からは特徴的な傾向は確認できなかった。階段床コンクリートにおける劣化部のSEM写真からはごく一部に針状結晶が確認され,エトリンガイトが発生している可能性があり,このことからも硫酸が発生した懸念がある。蛍光X線による定性分析結果からは,CaとSiが主成分であり硫黄Sは微量であった。他の地点もほぼ同様であった。 以上より,硫酸劣化が生じたと仮定した場合,中間生成物であるエトリンガイトのほとんどは消滅しており,その後に風化現象を伴って硫黄成分が移動したことになることから,対象部分の劣化現象はある程度過去に生じたことになる。ただし,現在も硫黄臭の発生があることから,劣化が進行する場合も想定される。 結論として,一般的なダムコンクリートにおいても硫酸劣化が否定できず,ダム湖水に面する上流面などに対しては,温泉地や下水道と同様に耐硫酸性のコンクリートを採用することが望ましい場合があることがわかった。なお,本研究と同じような劣化現象は,日本各地に散見するが,硫黄の存在が最も高いと推定されるのはSダムである。ただし,研究室での硫酸劣化の再現実験は硫化水素の発生を伴い危険であるため,工夫が必要である。
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