現状の分布型流出解析モデルでは、空間解像度(最少領域単位)を変更したときに、同一の解析対象に対してもモデルパラメータを再調整しなければならないという欠点がある。この問題を解決し、スケール依存性のない分布型流出解析モデルを作成するために、本年度は以下のような研究を行った。 河道水追跡におけるスケール依存性を解決するために、我々は近年、擬河道網の粗視化に関して最大集水河道追跡法を開発した。この方法を使っていくつかの空間解像度で全球の擬河道網を整備し、全球洪水解析システム(GFAS-Streamflow)プロトタイプの作成や、アジアの主要な大規模流域(74流域)を対象にした長期間(44年間)の流出解析の実施に利用できるようにした。 また、擬河道網の粗視化について更に検討を進め、粗視化した擬河道網が高解像度擬河道網の特徴や形状をどの程度よく再現しているのかについて、定量的な指標を与えて擬河道網の類似性を判定する方法を開発した。この方法は、弾性マッチング(基準となる画像パターンに一致するように画像パターンを変形させ、その変形の程度を以って類似性を判定する方法)等とは異なり、河道分岐点を特定の方法で1次元に並べ、その特徴量(位置や上流集水面積等)を擬河道網の間で比較するというもので、計算量も少なく類似性判定にも有効であることを確認した。 流出発生過程(降雨が地表面を流れたり地中に浸透したりした後に河道に流入するまでの過程)についても、まず小規模流域に関し分布型TOPMODELを使って検討を開始した。このモデルにおいて流出発生を支配する地形指標の累積分布が、粗視化に伴い一定の規則に従って変化することを見出した。
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