研究課題
都市とその周辺の地下汚染対策、水資源の利用と保全、工事による流動阻害対策、地下水管理などに適用するため、複数地点の井戸水中の化学成分(化学トレーサー)分析値から、都市域の地下水の複数の流動経路を分離し、各経路の分布と流量の割合、移動・滞留時間や流動履歴を高精度で決定する方法を提案する。また、その方法を野外に適用し、妥当性を検証する。以下の4工程で実施する。(1)地下水中のCFCsとSF_6の濃度を測定するガスクロマトグラフ(GC)を用いた測定システムを完成する。(2)野外の複数の井戸から採水する。これらのサンプル水から、水中のCFCs濃度とSF_6濃度、および酸素と水素の安定同位体比(δ^<18>OとδD)を測定する。(3)各帯水層の複数の流動経路を分離し、分離した各経路の移動・滞留時間(年代)を同時に決定する手順と数値解析法を示す。(4)本提案法で決定した野外の流動経路、流動履歴のキャリブレーション(校正チェック)とバリデーション(妥当性チェック)を実施する。H23年度は、上の(2)を実施した。湧水および地下水の採取を長野県の佐久地域の66箇所、沖縄本島南端の琉球石灰岩地域の40箇所、長野県松本盆地の39箇所、バングラデッシュ沖積帯水層の13箇所で実施し、水中のCFCs濃度とSF_6濃度、および酸素と水素の安定同位体比(δ^<18>OとδD)を測定した。測定した結果、SF_6はほとんどの地点で測定でき、年代決定(滞留時間測定)ができた。それに対し、CFCsは何らかの汚染が原因で過大な濃度が測定され、年代決定できない地点が少なくなかった。また、SF_6による滞留時間測定値は地質由来の溶存成分であるSiO_2やCaとの相関がCFCsよりも良く、1990年以降のCFCsの年代決定精度が落ちる期間も精度よく測定できるので、年代トレーサーとしてSF_6が優れていることがはっきりした。
2: おおむね順調に進展している
H22年度に作成した年代測定システムを使って、H23年度は地下水や湧水の年代測定が十分、可能になった。また、決定した滞留時間について年代トレーサー(SF_6,CFC12,CFC11,CFC113)間の関係が捉えられ、有効性や優劣、その精度について明らかになった。
松本盆:地でのSF_6,CFCsによる滞留時間の決定に影響を与える熱力学方程式の平衡定数であるヘンリー定数が温度依存性が無視できないため、地下水の涵養温度推定の方法を改善する。松本盆地の地下水については、現在、涵養温度推定値として測定水温を用いているが、酸素の安定同位体-標高-水温の関係を松本盆地の水源域で測定するよう改善を図る。また、酸素および水素の安定同位体とSF_6による滞留時間の3者から流動経路、その時間履歴を決定する観測方程式を導くようNakaya et al.(2007)のモデルを基に改良していく。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Applied Geochemistry
巻: 26(4) ページ: 587-599
doi:10.1016/j.apgeochem.2011.01.016
J.Hydrology
巻: 409 ページ: 724-736
doi:10.1016/j.jhydrol.2011.09.006