研究概要 |
揮発性有機化合物や重金属類による土壌や地下水の汚染が全国各地で顕在化している.ただし,土壌は食料生産や地下水涵養など環境財としての価値に加えて,土地として私有財産としての価値を併せ持つことが,問題解決を複雑にしている.汚染が発見されると,環境基準達成を目標にゼロリスクを目指すのか,有害物質を管理しつつリスクを低減して土地利用を図るのか,熱く議論される.本研究は,こうした土壌地下水汚染問題を汚染サイトごとに健康リスクを評価し,浄化対策実施の判断や実施する場合の浄化目標の設定など,一連の汚染対策に合理的説明を付与するためのサイトリスク評価手法を提案する. 平成23年度は,廃棄物不法投棄現場で起きた揮発性有機化合物による土壌地下水汚染を対象に,原位置バイオレメディエーション実施中の分解促進効果を,実現場データを利用した数値解析により評価した.また,同様の手法を塩素化エチレン類による地下水汚染が生じているサイト(工場敷地内)にも適用して,原位置バイオレメディエーション適用時の浄化効果に関する詳細な情報を得ることができた. また,平成22年度に引き続いて,有機ヒ素化合物による地下水汚染に関する挙動解析や原位置封じ込め措置の適用性に関する数値解析も行い,前者に関しては最適な揚水位置や揚水量,後者に関しては原位置封じ込め措置の適用が効果的な水文地質条件を明らかにした. さらに,不飽和土中に存在する汚染物質の地下水中への拡がり,地下水中に存在する揮発性汚染物質の不飽和土中におけるガス拡散などを例に,最終年度に実施予定のリスク評価モデルを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,土壌地下水汚染問題を汚染サイトごとに健康リスクを評価し,浄化対策実施の判断や実施する場合の浄化目標の設定など,一連の汚染対策に合理的説明を付与するためのサイトリスク評価手法の提案を目的にしている.平成23年度には複数の汚染サイトを対象に汚染メカニズムの解明や浄化対策効果の評価を行っており,研究最終年度に実施予定のリスク評価に必要な知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成22年度と平成23年度には,国内の複数の汚染サイトから各種データを収集するとともに,数値解析技術などを使って汚染サイトの特徴,トリクロロエチレンなど揮発性有機塩素化合物およびヒ素に代表される重金属類の土壌地下水中での存在形態を明らかにした.また,地下水揚水処理,バイオレメディエーション,原位置封じ込め措置といった浄化対策の効果についても現場データや数値解析結果から考察し,個々の技術の特徴を整理した.これらの知見を踏まえて,最終年度となる平成24年度には,より多くのサイトにおいて前年度までと同様の内容を実施するとともに,リスク評価を行って土壌地下水汚染に関するサイトリスク評価手法の提案につなげる.
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