本研究は人の行動に大きな影響を与える他者の行動を状態のフラクタル性を用いて表現し,個人間の相互作用を考慮した交通行動分析モデルの構築やTDM施策による個人への働きかけが他者の行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としている.本年度は3カ年の最終年度にあたるため、平成23年度に構築した従業地と公共交通機関利用者の居住地の職住分布構造をフラクタル次元を用いて定量化し、変数に取り入れた交通行動モデルの頑健性や他の数的指標導入に対する有意性の検討を行った.具体的にはフラクタル次元を算出する際に設定するエリアの大きさによって値が異なる特性があり,そのためこうしたエリアの大きさの変化に本研究で提案しているモデルがどの程度影響を受けるのか,あるいは変化がないのか等モデルの頑健性について分析を行った.また他の分布状態を数値指標として表すことができるエントロピー等の指標を用いた場合のモデルとの比較を行った.さらにフラクタル次元を用いたモデルを利用して交通政策による人の行動への波及効果の分析を行った. エリアの大きさをいくつか変えてフラクタル次元を算出し、その値を変数として用いたモデルを作成した結果、フラクタル次元やバス・鉄道ダミーの係数が変化したものの、費用や時間の係数への影響が見られなかった.これによりエリアの大きさの変化に対するモデルの頑健性が確認できた.また他のモデルと異なり、フラクタル次元の値は発散せず収束していく性質があるため、モデルを利用して交通政策による人の行動への波及効果を計測することができた.
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