研究課題/領域番号 |
22560543
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
奥田 隆明 名古屋大学, エコトピア科学研究所, 客員教授 (40233457)
|
キーワード | 人口減少 / 土地利用モデル / 環境管理 / 開発権取引 |
研究概要 |
今年度は、1)大都市圏と地方都市圏における開発権取引の影響評価、2)評価結果を踏まえた課題と対策の整理、3)開発権取引とあわせて実施する都心部への鉄道投資の評価の3つを行った。 まず、1)大都市圏と地方都市圏における開発権取引の影響評価では、前年度に開発した土地利用モデルを用いて、大都市圏と地方都市圏において開発権取引を導入した場合、都市活動にどのような影響が発生するのかを分析した。分析の結果、開発権取引の導入は、都心部の負担で郊外部の緑化を推進し、都市活動を都心部に集積させる効果を持つこと、しかし、都市間競争が激しく、都心部への集積が少ない地方都市圏では、開発権取引の導入が都市活動を他の都市圏に奪われる結果になることも明らかになった。 また、2)評価結果を踏まえた課題と対策の整理では、上述した開発権取引の評価結果を踏まえて、開発権取引と同時に実施すべき対策について整理した。中でも、都心部における都市鉄道や都市間鉄道の導入について、ヨーロッパの事例調査を実施した。ヨーロッパでは、近年、持続可能な経済発展の観点から、鉄道投資を積極的に行っている。こうしたヨーロッパの都市の中からアムステルダムを取り上げて、都市のコンパクト化を実現するために、都市間鉄道をどのように活用いているのかについて明らかにした。 さらに、3)開発権取引とあわせて実施する都心部への鉄道投資の評価では、開発権取引の課題を克服するために、CO2排出削減目標を定めて都心部に都市鉄道投資を行うことを提案した。開発権取引では、都市圏毎に緑地面積を政策目標として定めるが、これに合わせて都市圏から排出されるCO2削減目標を同時に掲げることを提案した。また、こうした環境目標を達成することを前提にして、高い経済成長を実現するための方法について検討し、その中から、都心部における鉄道投資について具体的な評価方法の提案を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、この研究の2年目までには、1)環境管理手法としての開発権取引の提案、2)大都市圏における開発権取引の影響分析、3)大都市圏と地方都市圏の比較分析の3つを実施することが計画されていた。 こうした意味においては、今年度、大都市圏と地方都市圏の比較分析までを実施することができたため、おおむね順調に進展していると評価することができる。しかし、近年の市町村合併により、大都市圏に比べると地方都市圏では行政区域の面積が拡大しており、都市圏内での流動を把握することが困難な状況になって来ている。そのため、パーソントリップ調査が実施されている比較的規模の大きな都市圏を分析対象にせざるを得ないということも明らかになってきた。また、これらのデータから都市圏内流動を推計する作業が必要となり、これが研究の進捗を遅らせる要因となった。 また、大都市圏と地方都市圏の比較分析を行った結果、開発権取引にはさまざまな課題も存在することが明らかになってきた。特に、都心部への集積が少ない地方都市圏では、開発権取引の導入が都市活動を他の都市圏に奪われ、都市活動の集積を失う可能性があることも明らかになってきた。こうした開発権取引の課題を克服するためには、あわせて都心部への集積を高めるような対策を実施する必要があり、今年度は、こうした対策を評価するための研究にも取り組んできた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる次年度には、これまでの研究成果を踏まえ、さらに複数の都市圏が集まる伊勢湾流域圏を対象にして、開発権取引の影響評価を実施することを計画している。また、その評価結果を踏まえて開発権取引の実現に向けた課題についても整理することを予定している。 このとき、伊勢湾流域圏の中には、名古屋都市圏のように比較的集積の高い都心部を抱えた都市圏もあれば、その周辺には比較的集積の低い都心部を抱えた都市圏が数多く存在している。こうした状況の中で、それぞれの都市圏毎に開発権取引を導入し、あわせて都心部への集積を高める対策を実施することを考える。また、こうした都市圏が集まる伊勢湾流域圏全体でも効率的な緑化を推進するための具体的な方策について検討する予定である。 また、伊勢湾流域圏には都市間高速鉄道(リニア中央新幹線)の整備も計画されており、2027年にはこれが開通する。こうした都市間高速鉄道の開通は、これが停車する都市圏の都心部では、都市集積を高めるための重要な要因なることが考えられる。そのため、単に開発権取引をこの地域に導入するだけでなく、開発権取引の導入と都市間高速鉄道の開通がそれぞれの都市圏毎のコンパクト化に如何なる影響を与えるのかについても検討することを計画している。
|