研究概要 |
本研究の目的は微量有害化学物質のひとつであるPAHsを対象として,コンポスト製造プロセスにおけるPAHsの消長を調査により明らかにし,また反応プロセスでの生物分解性を分子生物学的手法により明らかにすることである.そしてそれらの結果に基づいてPAHsの環境動態におけるコンポスト経由の負荷,特に下流域の水環境に対する流出負荷に対する寄与を明らかにする.本年度は広島県内の代表的なコンポストプラントに協力のもと,通年調査を継続した.調査結果に基づき6つの下水汚泥および副資材としての食品残渣(コンポジットとして"汚泥"と称する),そして製品コンポストの基本性状およびPAHs含有量,有機溶媒抽出物の発光細菌(Vibrio fischeri)に対する毒性,およびAhR反応性(ダイオキシン様毒性)を算定した.汚泥及びコンポストの含水率は77%および34%,有機物含有量は強熱減量で汚泥及びコンポストが88%と74%であった.またPAHs含有量は,汚泥及びコンポストはそれぞれ10lng g^<-1>および95ng g^<-1>であった.発光細菌に対する毒性(1/EC50)は,汚泥及びコンポストはそれぞれ36000L g^<-1>および602L g^<-1>であった.AhR値は,汚泥及びコンポストはそれぞれ14.2gTEQ g^<-1>および22.8gTEQ g^<-1>であった. 調査によって推測されたコンポスティングプロセス前後でのPAHsおよび毒性の低減率を検証することを目的として室内実験を実施した.実験における主要な制御因子は温度及び含水率とした.比較として同時期に同じロットで現地の汚泥を継続採取した.三回の実験を行い,含水率,有機物含有量,PAHs含有量においては室内実験は現地での汚泥の低減と類似の減少率を得た.以上よりこれらの値は現地での状況を適切に模擬していると考えられた.しかし発光細菌に対する毒性は現地と大きく異なった.このことから現地の模擬の適切さの評価指標は毒性も含めて考えるべきであることを示唆している.
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