研究概要 |
本研究の最終目的は,鉄骨建築物の溶接接合部における脆性破壊を防止するための欠陥の評価基準の策定である.脆性破壊は,塑性拘束が強く,かつ,歪集中が生じる位置から先行して発生した延性亀裂を起点として生じるが,建築構造用鋼材は材料の破壊靱性値が比較的高いため,脆性破壊発生前に欠陥周囲が大きく降伏し,亀裂先端から延性亀裂が大きく進展する場合が多い.延性亀裂の進展に伴い,亀裂先端周囲の応力状態が変化し塑性拘束も変化する.そこで本研究では,欠陥形状・寸法と延性亀裂進展量の関係を調べるために,通しダイアフラム形式柱梁接合部をモデル化した試験体に,塑性拘束の弱い表面欠陥となる切欠きを挿入し,欠陥から進展した延性亀裂を起因とする脆性破壊を再現する繰返し載荷実験を行った.昨年度の実験では欠陥先端から延性亀裂を進展させ脆性破壊に到る過程を再現できたが,ダイアフラム側貫通欠陥に比べて塑性拘束が低い割には延性亀裂の進展量が小さく,貫通欠陥を持つ試験体と同様の変形性能・破壊性状を示したため,本年度は溶接始終端部角部に更に塑性拘束が低い表面欠陥を挿入し,実験を行った.その結果,欠陥から進展する延性亀裂の進展量とFE解析から求めた塑性拘束の度合いとの間に一定の関係が確認できた.ただし,試験体数が少ない為,継続して実験を行い,上記が一義的なものであるか確認する必要がある.また,破壊靱性試験を用いて,FE解析により亀裂先端の破壊駆動力と応力状態から塑性拘束を考慮する手法の有効性を検討した結果,Toughness Scaling Modelの応用のみでは塑性拘束を的確に考慮できない場合があることも示唆された.即ち,実験では亀裂先端の鋭敏性に応じて破壊靱性Jcは異なるが,解析上では応力三軸度に違いが生じず,等価な応力状態を想定することにより塑性拘束の影響を考慮する方法では,鋭敏性の違いを表現できないことが明らかとなった. なお,本研究成果はFurther experimental study on assessment of safety of beam-columm connections with weld defects from brittle fractureと題して,9月に開催される14th Int. Symposium on Tubular Structuresにて発表する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
通しダイアフラム形式柱梁接合部をモデル化し,表面欠陥を挿入した試験体を用いて繰返し載荷実験を行い,欠陥から進展した延性亀裂を起点とする脆性破壊が再現した.その結果,脆性破壊発生時の亀裂進展量と塑性拘束の関係を求めることができた.また,破壊靱性試験では,切欠き靱性と塑性拘束の関係を表す実験結果に基づき,Weibull応力により塑性拘束の影響を考慮する手法を検討している.以上は,交付申請書に記載した内容を,ほぼ満足している.
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今後の研究の推進方策 |
延性亀裂は,亀裂先端領域にボイドが発生し,亀裂がこれと連結することによって進展する.ボイドの発生・連結には塑性ひずみと応力三軸度が大きく関与することから,FE解析により亀裂先端の歪状態および応力三軸度を求め,延性亀裂の発生点を予測する.本年度の実験で得られた亀裂進展量と塑性拘束の関係が一義的なものであるか否かを明確化するため,上記実験を継続して行う.延性亀裂の発生・進展の関係に基づき,Toughness Scaling Modelの応用した手法とWeibul応力を用いた評価手法を並行して検討する.新たに問題として浮かび上がった欠陥の鋭敏性についても検討を重ねる必要があるが,まず延性亀裂の進展後の脆性破壊発生の予測に注視する.この予測手法の有効性は,実大部分架構を用いた実験に適用して判断する.
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