本年度は、これまでの調査結果の分析および取りまとめを中心に行った。 英国住宅調査の結果を1993/4年~2010年で経年比較すると、1919年以前に建設された住宅のストック戸数は、どの時期においてもそれぞれ全体のほぼ21%前後を占めており、この間住宅ストックの減少はほとんどみられない。他方1945年以前の住宅ストックでは、2010年時点で全体の38.5%を占めている。経年的にみると、1993年42.4%、2002年39.7%と若干減少しているが、減少しているのはこのうち1919~1944年に建築されている住宅である。 イギリスにおける住宅の寿命が長いのは、基本的には第2次世界大戦以前に建築された住宅が一定割合を占めているという点、そしてこのことのかなりの部分は、イギリスにおける都市化が19~20世紀前半においてすでに進展していたことに帰因している。 このような点を踏まえて、住宅の寿命について日英比較という観点から分析すると、住宅寿命はその物理的な長短の差が問題なのではなく、物理的耐用年数と社会的耐用年数とのギャップ、つまり日本の住宅の場合、社会的耐用年数が物理的なそれに比べて相当程度短いということが問題であるということがわかる。それは、住宅のような、個人的消費過程の一環をなし、それ自体として利潤原理が作用しない消費財の場合、生産過程に見られるような競争を介した法則的な「適正」年数は存在せず、当該市場における需要と供給との関係、及びこれを取り巻く社会制度のあり方を内容とする、総じて当該社会の発展段階がこれを規定していくことになる。
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