本年度は、本研究の最終的なまとめを視野に入れた研究会を開催、研究参加者が行った研究の成果にもとづき、1)文化的景観の体系論、2)文化的景観をみる多方向的まなざし、3)関係性の場としての営繕管理、4)尊厳ある営みとしての維持管理終末論、といった概念に基づく研究まとめの方向性を示した。文化的景観理論の成立期にさかのぼる文化の複合性の概念、あるいは景観をみる視点の相対性等に関する理論的整理を踏まえ、研究対象地域の事例研究を行った。それらを総合により、従来の持続システムとしての文化的景観という認識とともに、更新システムとしての文化的景観という概念が地域や事例によっては必要となることが再確認された。例えば1960年代以降、下五島地域のキリスト教集落では、8件の教会堂が閉鎖された。閉鎖の主な要因は信徒減少に伴う維持管理が不可能になったこと、建物の激しい劣化により、財政的に修復・維持が困難になったことが複合している場合が多く、後に文化財指定された教会堂でも、維持管理能力が無い以上閉鎖・解体すべきとの議論があったなどキリスト教集落の景観の核となる教会堂の継続性も信仰との関係上難しい問題を孕んでいる。なお今年度は、以上を含む本研究で得られた知見に基づき、文化的景観の理論に関する全国ワークショップ、および学会で関連研究の成果発表を行った。
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