コミュニティの崩壊、急速な世帯の多様化は種々の領域に波及効果を齎しており、我々を包み込む器としてのすまいも例外なくこの影響を受けている。三世代家族の減少は高齢者の孤立や介護問題を激化させ、女性の労働市場への参加は社会的育児の欠落、少子化問題を露呈させるに至った。この問題の根底には家事、育児、介護といったケア労働の主な担い手=専業主婦の喪失があり、加えて、そこを補うべき公的施策の綻びがある。本論で取り上げるひとり親(母子・父子世帯)はケアの不備が生活困難に直結する典型的なグループである。就労と育児の両立が不可欠なひとり親には保育にかかわる優遇措置があるが、そこには送迎時間の限定や病時の対応困難など就労に制限をかける課題が残されている。これを補うため就労に不利ではあるが親類らから私的支援が得られる地域に住まいを設定するケースは少なくない。また、多くが住宅、育児施設、職場を近接させて就労継続に努めている。それでもなお、子を抱えて働くことは容易ではなく彼女/彼らは安定就労から排除されるのである。このように「1家族」内でケアが完結せず、加えてケアの社会化が円滑に機能しない現状においてこれをどこに求めていくのかが問われる時期に来ているのである。この解決を非血縁関係にある複数の世帯が「1住宅」にてケアの不備を補完し合う住まいに求めることはできないか。ここが本研究の最大の狙いである。この可能性を探るにあたり、さしあたり初年度では国内においてひとり親を含む住生活の共同化の実践に学んだ。具体的には、1)当事者である母子世帯が自発的に立ち上げた非血縁関係にあるもの同士のシェアハウス(東京都)、2)NPO主導型の共同住宅(千葉県)、3)企業が福利厚生の一環として手掛けた母子世帯向け共同住宅(石川県)、4)企業による母子世帯×高齢者マッチング型シェアハウス(東京都)などである。次年度は、これらの事例を吟味した上で、海外の事例について検討することを予定している。
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