研究課題/領域番号 |
22560641
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中嶋 節子 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (20295710)
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研究分担者 |
小野 芳朗 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (50152541)
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キーワード | 近代 / 琵琶湖疏水 / 京都 / 都市史 / 土木事業 / 産業 / 都市計画 / 土地利用 |
研究概要 |
以下の2項目において成果をあげた。 (1)疏水用地の土地取得の実態解明 昨年度から収集を進めている京都市上下水道局疏水事務所所蔵の明治19年以降の琵琶湖疏水工事設計資料、土地売買・賃借関係資料、土地利用申請関係資料、水使用・電力使用関係資料、予算・決算関係資料と併せて、法務局所蔵の土地台帳を分析することで、琵琶湖疏水の疏水本線、分線建設用地の土地所有状況とその買得金額を解明した。用地の地目の大半が田畑であること、地価の1.3倍程度の金額で収用されたことが指摘できた。この成果は、小野芳朗・西寺秀・中嶋節子「琵琶湖疏水建設に関わる鴨東線路と土地取得の実態」(日本建築学会計画系論文集、第676号、2012年、6月掲載決定)として報告した。 (2)岡崎地域における産業の展開の解明 『全国工場通覧』ほか多数の統計資料、電話帳などを分析することで、地域ごとの産業立地特性、業種別の分布などを年代ごとに解明し、夷川発電所周辺に中小規模の機械工業、繊維工業が分布すること、大規模な機械工場が慶流橋南に立地したことなどを明らかにした。また、都市計画において工業地域としての指定を受けなかったことによって、工業地としての発展は限界を見るものの、戦後昭和40年代までその性格は引き継がれたことを把握した。こうした岡崎地域の展開を、都市経営方針と重ね合わせることで、近代京都における岡崎地域の位置づけを考察した。 その他 琵琶湖疏水と防火について、御所水道、本願寺水道など直接引水した事例のみならず、疏水整備前後から増加する社寺などの歴史的建造物、官公庁など近代施設における防火意識の高まりと防火対策の進行について資料を収集した。また、洛外の住宅地開発に琵琶湖疏水が与えた影響についても販売パンフレットや洛外を紹介した言説などを収集することでその概要を明らかにしつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
京都市上下水道局疏水事務所所蔵の資料について、一応の整理が終わり、テーマ別に分析、考察を進める段階にいたった。そのうち土地利用については日本建築学会の査読論文として掲載されるところまで完成度をあげることができた。また、疏水によってもたらされた産業とその変遷について詳細に明らかにすることができるとともに、都市計画との関係をも考察するにいたった。琵琶湖疏水をめぐる分析テーマとして掲げたすべてについて、深めるには至っていないが、テーマごとにみれば一定の成果をあげたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
23年度までにおおよその資料収集を完了しており、本年度は、分析、考察を集中的に行い成果を研究会において報告、論文として上梓することを目指す。 ■防火都市の構築琵琶湖疏水による直接的な防火対策とともに、公共施設、社寺における防火設備整備について、近代の都市像、防火概念という観点から考察する。 ■疏水観光の成立過程と都市構想産業の展開と並行して、明治28年の内国勧業博覧会以来、疏水周辺の土地利用が観光と結びついてどのように変遷したのかを解明する。 ■別荘・住宅地開発疏水沿いに開発された住宅地の開発経緯とその販売状況を疏水との関係から分析する。その際、異なる主体による開発の相違点と共通点に注目する。
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