本研究は、18世紀の英国において新古典主義と中世復興主義が建築に関してどのような関連性を有していたかを、建築家の思考と作品、および都市の視点から検討するものである。平成22年度では、以下の課題を設定して取り組んだ。 (1)18世紀中頃からの新古典主義建築思潮を支えた建築書、建築理論の分析・考察 (2)18世紀の中世復興主義に寄与したと考えられる建築書の分析・検討 (3)18世紀中頃から19世紀初頭までを対象とした作品分析。 主に(1)、(2)に関しては研究を進めた。建築家・造園家・建築著述家として知られるバティ・ラングレイ(1696-1751)の著述に焦点を当てた。ラングレイが18世紀前半に建築書の出版で重要な位置を占めたこと、著述には古典主義的な指向をもつものだけでなく、中世復興主義にも重要な役割を果たした出版物のあることなどの理由からである。協力研究者の豊口真衣子との共著、「バティ・ラングレイの『ゴシック建築』における割り付け法の基礎的検討」(日本建築学会2010年大会学術講演梗概集)で、『ゴシック建築』(1742)の割り付けに用いた等分割法は、等分という手法が必ずしも先行するラングレイの古典主義的な著述、『図面の宝典』と同じでなかったことを明らかにした。古典主義で一般的なオーダーという用語も使われてはいるが、ラングレイは単に古典主義と関連づけるためだけでなく、多様なゴシック的細部をより簡便に決定していく方法として、等分割が有効と判断したことがその割り付け法を採用した背景にあると思われる。 この等分割法に着目し、紀元前後のウィトルウィウス、17世紀のペローの建築書と比較した、「バティ・ラングレイの等分割法の基礎的検討」(2010年度日本建築学会関東支部部研究報告集)では、ラングレイの方法は先行する建築書と較べ進めかたが整理され、先行する方法同士も異なる点があり、ふたりの著者の方法をラングレイは対象とした建築に合わせ採りいれる指向野あることを論じた。さらに、古典主義建築の割り付けでは、部分と部分の関係がより明瞭な点で、古典的な美の捉えかたがまだ反映しているといえる。一方、ラングレイの提案した等分割法による中世建築の割り付けには、割り付けられた結果に中世建築の割り形など細部の意味をもたせる方向性がみえ、この点が同じ等分割法を採ってはいるが、ラングレイがみいだした古典主義建築と中世建築の相異といえる。
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