平成22年度の研究の成果は以下の6点である。第一にギリシア・ローマ時代の劇場、オデイオン、ブーレウテリオンと称される建築物の一覧をすでに作成していたが、その資料の再検討と追加を行い、約900例を一覧としてまとめ、今後の研究の基礎資料とした。第2に客席の平面形態について248例を対象に従来とは異なる12のタイプに分類し、それぞれのタイプごとの特徴、地域的相違、建設年代による相違を明らかにした。その結果、オルケストラ回りの客席の平面形態、analemmataと舞台との並行かどうか、パロドイの配置が客席の平面タイプの分類する重要な要素となることが判明した。第3に、約300例を対象に客席の規模を客席の水平通路によって区分された層数と、階段通路によって区分されたcunei数から検討し、ローマ時代ほど層数は多く、cunei数は4~6となる事が多いものの、オルケストラ直径と層数との間には強い関係が見られないことが明らかとなった。また、オルケストラの直径と客席の総段数との比較から、両者が比較的良い相関関係にあることが明白となった。第4に客席の座席の奥行きと高さについて検討し、その平均的な寸法はそれぞれ70.5cmと37.1cmとなり、ギリシア時代~ヘレニズム時代にはそれほど客席の傾斜に変化はないが、ローマ時代になると傾斜がややきつくなる傾向にあり、特に中東の劇場でその傾向が強いことが判明した。第5に舞台背後に置かれる建物の種類や用途に関する資料を収集した。最後に、イタリアとスペインの約15例の劇場の現地調査と写真測量を2010年9月に行い、写真資料から寸法の抽出を行っている。
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