研究の最終年度である。研究内容は、これまでと同様に「近代和風住宅」の代表的遺構を取り上げ、その実測を通して設計寸法の解明を行った。すなわち、今年度は、大正2年竣工の旧諸戸清六邸の和館部(三重県桑名市)、大正4年竣工と推定される事業家新田長次郎の別荘の琴ノ浦温山荘園主屋(和歌山県海南市)、大正6年竣工の旧松平高松別邸の被雲閣(香川県高松市)の重要文化財3棟、および昭和11年竣工の日興證券創立者遠山元一邸(埼玉県)の4棟の実測調査を行った。 実測調査の結果、旧諸戸邸の設計基準寸法は、1間6尺の内法制で、全ての部屋が同じ設計基準寸法を用いていると推測された。旧新田別邸の設計基準寸法は、1間6尺3寸の内法制で、全ての部屋が同じ設計基準寸法を用いていると推測された。同様に旧松平高松別邸は、全ての部屋が1間真々6尺5寸を設計基準寸法としていることが推測された。このことから、これらは同一の設計基準寸法で設計され、異なった設計基準寸法の併存は見られなかった。一方、遠山邸は、東棟、中棟、西棟の3つのブロックからなる住宅で、それぞれ「関東地方豪族の趣」「2階建ての東京風」「京間風の数寄屋づくり」との説明があり、設計基準寸法の使い分けの可能性が高かった。実測の結果、東棟と中棟は1間6尺の真々制、西棟は1間6尺3寸の真々制、と推測された。ちなみに西棟は母親の隠居所で、「京間風の数寄屋づくり」の意味が、1間6尺3寸の真々制を指すと考えられる。いずれにせよ、同一の建物でありながら異なった設計基準寸法を併存させる方法が1例ではあるものの確認された。「近代和風住宅」の設計基準寸法を見ていくと、こうした事例は少ないものの、同一建物でありながら異なった基準寸法を併用する事例が散見され、設計システムから見た「近代和風住宅」の特徴のひとつと考えらえることを指摘しておきたい。
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