今年度は、中世の軒規矩術法の仮説である「留先法」によって二軒繁垂木、同疎垂、一軒繁垂木、同疎垂木、扇垂木、八角軒の作図をおこないその妥当性について検証した。その結果、一部簡易な軒や「引込垂木法」の初期遺構と思われるものを除き、中世において軒は「留先法」によって設計されていることが確認された。「留先法」については2編の査読論文を投稿し全て採択された(1編は次年度に掲載予定)。 近世の軒規矩術法については、「引込垂木法」の技法とその変容過程について研究をおこない昨年度から3本の査読論文を投稿し全て採択された(1編は次年度に掲載予定)。ここで、近代の軒規矩術法の成立過程の詳細が新たな課題として浮かびあがってきたため次年度の課題とする予定である。 他に、茅負曲線の決定方法、垂木勾配の決定方法について研究して査読論文を2編投稿し採択された。さらに、平の軒出と隅の軒出の関係についてまとめた。 以上により、本研究の目的である中世から近世にかけての軒規矩術法の変容過程についてまとめ、3編11章からなる学位請求論文を大阪市立大学に提出し博士(学術)を授与された。 論文の要旨は、現代に文化財建造物の修理で使用されている軒規矩術法は、平の軒出を枝割で決定するという考え方と引込垂木法を特殊な技法と理解した結果出来あがった技法であると位置づけられると結論することが出来る。 以上により、今年度は概ね当初の研究目的を達成したと言えるが、新たな課題も明らかになった。具体的には上述した近代軒規矩術法の成立過程の詳細、また未着手であった扇垂木割の技法(鎌倉割、等間割)の変容過程であり、今年度はそれらについて研究課題とする。
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