最終年度は岩窟仏堂と係わる「山のジオパーク」「山の世界遺産」等を歴訪した。まず8月末から中国福建省の「中国丹霞」を訪問し、泰寧の岩窟複合型懸造仏堂「甘露寺」を調査した。甘露寺は南宋紹興年間造替の古刹で、岩陰・岩窟前面の大きなプラットフォームを巨木柱1本で支え、その上に複数の仏堂を構える。平安末の東大寺大仏殿再建にあたって日本人が視察に来たという寺伝も残っている。残念なことに、1960年代に火災で全焼しており、現在の建物はその後の再建による。甘露寺は「南方の懸空寺」と称される中国の代表的な懸造寺院だが、懸空寺は絶壁に張り出し、甘露寺は岩陰・岩窟内に納まる点で異なる。三仏投入堂や不動院岩屋堂と類似点が多いのは甘露寺の方である。甘露寺の調査後ろ、福州市に残る南方中国最古の木造建築、華林寺大殿(北宋)も調査した。大仏様と禅宗様が複合化しているが、やや大仏様の色彩が強い。 9月にはブータン仏教発祥の地であるタクツァン僧院を始め周辺の洞穴僧院を調査した。今回滞在したパロ/ティンプー地区には数千の寺院があり、山の斜面におびただしい数の懸造式洞穴僧院が残っている。洞穴僧院は僧の生活空間であると同時に瞑想修行の場であり、インドで仏教が発生した当時の姿を彷彿とさせる。このブータンでの体験から「チベット系仏教及び上座部仏教の洞穴僧院に関する比較研究」を構想し、平成25~27年度の新規科研費に採択された。12月にはトルコのカッパドキアでキリスト教の洞穴住居・洞穴僧院を調査した。文明の十字路と呼ばれる地域の洞穴住居・洞穴僧院と中国・インドのそれに系譜関係があるか否かは今後の課題と言えよう。 9月末にはアジア石窟寺院研究会を主催し、雲岡石窟及び西インドの初期石窟に関して討論した。以上の成果を『聖なる巌-窟の建築化に関する比較研究-』という題目の報告書にまとめ刊行した。これが3冊めの科研報告書である。
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