本研究は、研究代表者が平成18~20年度に科学研究費補助金(課題番号18560638)を得て実施した研究課題「わが国におけるキリスト教会建築の導入過程に関する比較技術史的研究」の成果を引き継ぎ、それをさらに発展させることを目的とする。すなわち、研究の対象領域をわが国の周辺地域に当たる東アジアにまで拡大し、また時期的には19世紀から20世紀前半までを視野に入れて、導入過程に続く展開過程の様態を包括的かつ比較技術史的に解明しようとするものである。このため、その方法としては、東アジア地域および様式史的源流をなすヨーロッパ地域における関連遺構並びに資料の現地調査を行うことと、他方で近年の周辺各国における研究蓄積に関する主として文献的調査を車の両輪として位置づけている。 最終年度に当たる平成24年度においては、11月に国内における事例調査1回、2月末~3月上旬にフランス・パリおよび周辺地域における現地調査1回を実施した。 後者の海外現地調査の主目的は、パリ市内および周辺地域におけるゴシック・リヴァイヴァルの主要遺構を再確認することと共に、既往の研究において創建時の長崎・大浦天主堂の設計に影響を与えたことが指摘されているパリ市内のサン・ロラン教会堂を初めて調査することとしていた。この結果、ゴシック・リヴァイヴァルの主要遺構であるサン・トゥージェーヌ教会堂には近似性を再確認しえたのであるが、新たな知見が得られることを期待していたサン・ロラン教会堂では、この建物が15世紀に着工され、19世紀半ばに竣工したという時期的な近接性はあるものの、造形的、技術的に見た場合、どの点が大浦天主堂や東アジアの教会建築に引き継がれたのかという点については、残念ながら明確な証拠をほとんど見出すことはできなかった。このため、現地調査にもとづく分析結果を取り纏め、研究成果として公表するには至っていない。
|