研究概要 |
本研究は、日本各地の近世建築に使われた木曽系ヒノキに焦点をあて、その流通に関する実態を使用部材の年輪年代学的な手法を用いて明らかにすることを目的とした。調査分析にあたっては、長野県産ヒノキの年輪データで作成した長期の暦年標準パターンを基準パターンとし、これとの同調性が高いものに着目することによって木曽系ヒノキかどうかを見分けることとした。これは、産地が近ければ近いほど年輪パターンに産地の特徴があらわれる。その地域的特徴の類似度が高いかどうかをその拠として検討した。本年度は、滋賀県下に所在する重文西教寺客殿,重文園城寺一切経蔵,重文聖衆来迎寺客殿,京都府下に所在する重文清水寺子安塔の年代調査を実施した。 重文西教寺客殿と重文聖衆来迎寺客殿の調査では腰板障子の羽目板や天井板に木曽系ヒノキが使われていることがわかった。重文園城寺一切経蔵は、もとは山口県にあったものを江戸時代に園城寺境内に移築したものといわれている。この建物の内部にある輪庫の底板には、木曽系ヒノキが使われていることがわかった。この板材は、江戸時代に山口県から移築した時に修繕材として使われたものであることがわかった。重文清水寺子安塔の調査では、羽目板に一部使われていることがわかった。 平成22年度と平成23年度の調査から、京都府や滋賀県に所在する有名寺院の近世建築には、建具材や天井板として木曽系ヒノキが選択的に使われている傾向がわかってきた。今後、事例を他地域のものまで含め増やしていくことによって、木曽系ヒノキの流通実態が一層明らかになることが想定される。
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