本研究は、日本各地に所在する近世建築に使われている木曽系ヒノキの利用実態について建築部材の年輪年代学的な分析調査をおこない、復元的に明らかにすることを目的とした。本年度は以下の府県に所在する5棟の近世建築において、調査の承諾を得ることができ、現地調査をおこなうことができた。 京都府:重文建仁寺方丈,建仁寺山門、兵庫県:太山寺三重塔、和歌山県:道成寺書院,浄妙寺本堂 調査の結果、重文建仁寺方丈では、木曽系ヒノキと確認できたものは、格天井の天井板であった。これまでの調査例と同じく書院や客殿の天井板に好んで使われていることをこの方丈の天井板でも確認することができた。また、建仁寺山門では、屋根板の一部に木曽系ヒノキが使われていることを確認した。ここでも木曽系ヒノキが選択的に屋根板に使われていることが確認できた。太山寺三重塔では、床板と羽目板の板材に使われていることがわかった。道成寺書院では、廊下と外部を仕切る腰板障子に使われていることがわかった。同じく、浄妙寺本堂では窓枠材と板戸の羽目板に使われていることがわかった。この2棟の結果は、和歌山県が江戸時代にヒノキ材を各地に産出した地域であったにもかかわらず木曽系ヒノキを確認できたことは想定外の結果が得られたことになる。 平成24年度の調査からも京都府下の近世建築はもちろんのこと、兵庫県や和歌山県の近世建築においても、建具材や化粧材などに幅広く使われていることがわかった。
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