研究課題/領域番号 |
22560654
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐久間 昭正 東北大学, 大学院・工学研究科, 教授 (30361124)
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研究分担者 |
土浦 宏紀 東北大学, 大学院・工学研究科, 准教授 (30374961)
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キーワード | 電気伝導度 / 電子状態 / スピントロニクス / スピン分極率 / 第一原理計算 / 磁性人工格子 |
研究概要 |
強磁性金属の電気伝導度は有限温度におけるスピン揺らぎによって低下することが知られているが実際の物質に対して定量的に評価された例はない。そこで23年度はbcc-Feを取り上げ、スピン揺らぎが電気伝導度に具体的にどのように影響するかを第一原理計算から定量レベルの検討を行った。 電子状態の計算には、局所スゼン密度汎関数法の下で強結合線形マフィンティン軌道(TB-LMTO)法を用い、スピン揺らぎは上向きスピンサイトと下向きスピンサイトのランダム配置をコヒーレントポテンシャル近似(CPA)を用いることによって考慮した。そこで得られたコヒーレントグリーン関数を久保公式に代入して電気伝導度の計算を行った。 得られた結果は、電気抵抗率(ρ)の磁化依存性(ρ∝1-(M/M_0)^2、-M:磁気モーメントの平均値、M_0:局所磁気モーメント)をよく再現し、更に,M/M_0の変化を温度に換算して得られる電気抵抗の温度依存性を定量的によく再現することが分かった。さらに注目すべきことは、スピン揺らぎの程度に応じて、スピン別の電気伝導度(σ_↑、σ_↓)の大小関係が大きく変化することであり、キュリー温度近傍ではスピン分極率(P=(σ_↑-σ_↓)/(σ_↑+σ_↓))が負になる可能性があることである。このことは、これまで絶対零度における電気伝導度から評価していたスピン分極率も有限温度では顕著に異なる可能性があることを示唆しており、スピントロニクス材料の特性評価にスピン揺らぎの影響を考慮する必要性を示すものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不規則合金の電気抵抗やスピン別伝導度から期待されるスピン分極率の定量評価技術を確立し、ハーフメタルを含むスピントロニクス材料のスピン分極率およびスピン揺らぎの影響など予定に即して実行した。また、23年度以降はTMRなどの磁気接合系のコンダクタンスの評価技術の検討を開始する予定になっており、まだ結果を出すに至っていないが、ほぼ計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
本課題がスタートした後、スピントロニクス分野では(異常ホール効果、スピンホール効果、結晶磁気異方性など)スピン軌道相互作用が絡んだ現象に注目が集まり、その起源に関する理論研究と第一原理計算に基づく定量評価に対する要求が急速に高まっている。従って、本課題においても、24年度以降はスピン軌道相互作用を考慮した伝導特性の計算技術を確立し、磁気異方性や異常ホール効果などの特性の定量評価を行っていく予定である。
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