課題研究初年度である本年は、大阪大学産業科学研究所附属量子ビーム科学研究施設にてLバンドライナックを用いた赤外-THz FEL光を光源とした固体電子状態の研究を行うために、まず、研究計画・方法に挙げている低温冷却設備の構築に着手した。本計画提案時は神戸大学所属であったため、可搬性のある液体ヘリウム・バス式の低温クライオスタットを計画したが、その後本年度8月に同研究所に移動となったため、冷却効率等優先し、液体ヘリウム・フロー式のクライオスタットおよび光学系を組み込んだ真空チェンバーを新たに設計し、採用することに変更した。現在のビームラインには分光系および光学定盤が設置されており、予備実験として室温大気下での反射測定実験を行った。 FEL光はライナックからの電子バンチによりパルス光として発生するが、光の強度およびエネルギー分散特性がパルス毎に異なることが測定上の問題となった。最終的に分光器下流の光学系を測定系とモニター系にわけ、パルス毎に強度を規格化することで試料および標準物質の赤外反射強度を正確に見積もることが出来た。また、波長分解能が1μmと高いことから水による吸収が問題となったが、定盤上全体を乾燥窒素ガスでパージしてやることで解決した。テラヘルツFEL光の空間分解能克服の手法として近接場顕微鏡実験を新たに開始しており、これらの実験環境の整備は利用開拓実験の際の測定精度向上にも大きく役立つと考える。またこれと並行して、分子科学研究所UVSORにて固体電子物質の低温、圧力、磁場下という多元極限下の実験を行った。
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