この研究では、近年環境エネルギー問題の観点などからも関心の高い固体酸化物について、その内部で起こる原子拡散を第一原理理論により電子論的に追跡し、拡散機構の裏にある電子状態・各種化学結合の役割を明確にする。さらに酸化物に導入されるドーパントのイオンと拡散する原子との相互作用と拡散への影響を理論計算により導き出す。これによって酸化物全般にわたる拡散の微視的理論の構築を目指し、拡散の制御へと結びつく知見を求めるものである。 陰イオンの拡散現象として、La9.33Si6O26(Laアパタイト)に見られる酸素イオン拡散を研究し、これまでに、準格子間拡散機構が活性化エネルギーの実験値を再現し、拡散の活性化エネルギーはLa空孔に強く支配されていることを示した。これを受け、元素置換の影響について理論的な検討した。未置換系ではLa空孔により高い拡散障壁が形成されることから、元素置換でLa空孔を消滅すれば低障壁が期待される。本年度(24年度)、Siを一部Alで置換した系で、格子間酸素の安定位置を広範囲に探索し直した結果、格子間酸素安定位置が変わり、拡散機構も格子間拡散を基本とするように変化することが示された。このことは、アパタイト型酸化物では、置換された物質は全く異なる物質として捉えないといけないことを表している。 また、陽イオンの拡散現象として、金属酸化物の生成過程に深く関係しているAl2O3中のAl拡散について、これまでに安定原子配置と欠陥形成エネルギーの評価、拡散経路・活性化エネルギーの導出を行い、従来の計算結果とほぼ同様な結果が得られた。その後、ドーパントと拡散Alとの相互作用をSiやTiを用いて理論的に評価した。ところが、Alの拡散係数について、ドーパントの有無に依存しないという実験結果が見出された。これを定量的に説明しうる拡散モデルを種々検討したが、説明には至っていない。
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