研究課題/領域番号 |
22560676
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
磯部 雅朗 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, グループリーダー (10354309)
|
研究分担者 |
新井 正男 独立行政法人物質・材料研究機構, 理論計算科学ユニット, 主幹研究員 (40222723)
|
キーワード | 熱電材料 / 遷移金属酸化物 / 強相関電子系 / 磁性 / 計算物理 |
研究概要 |
本研究は、新規高性能熱電材料の創製を目指し、その設計指針を構築するために、物質の電子構造の観点から異常熱起電力の発現・制御機構を明らかにすることを目的とするものである。具体的には、CaCo_2O_4等の低次元系磁気相関酸化物を用い、固溶置換体の作製によるバンドフィリング、バンド幅・形状制御を通じて、異常熱起電力の制御を行う。さらに、その物質評価と物性評価を行うと共に、バンド計算と分光手法による電子構造・電子状態の解析を行い、線形応答理論などを用いて異常熱起電力の起源を明らかにする。 CaCo_2O_4に関して、H23年度は、前年度合成に成功したNa置換体Ca_<1-x>Na_xCo_2O_4(0≦x≦0.6)の基礎的な物質・物性評価(X線回折、電気抵抗率測定、磁化率測定など)を行った。その結果、合成相には、ホール(正孔)が系統的、且つ、十分にドーピングされている可能性が高いことを確認した。特に、x≧0.5の相は、金属的な電気伝導性(dρ/dT>0)を示すことが明らかとなった。バンド計算によれば、CaCo_2_4のフェルミ面形状は、ホールドーピングに伴うフェルミレベルの位置変化によって、フェルミ面形状は、ホールポケット状(三次元伝導)から平行平板状(一次元伝導)へと変化する。そして、高ホール濃度相では、大きな一次元的フェルミ面の形成によって、高い電気伝導率が実現できると予想されている。したがって、実際に得られた金属相は一次元金属である可能性が高い。従来のコバルト酸化物に於いて、一次元的な結晶構造を持つ化合物は知られているが、その電気伝導は全てに於いて絶縁体(半導体)であった。つまり、今回合成したCa_<1-x>Na_xCo_2O_4(x≧0.5)は、コバルト酸化物としては初めての一次元金属の可能性がある。 その他に、スピン・軌道相互作用誘起モット状態やスピンフラストレーションなどの観点から得た新規化合物の評価も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CaCo_2O_4のNa置換に成功し、金属相を得たことは、本研究にとって大きな成果である。今後、これを用いた物性評価により、これまで知り得なかったコバルト酸化物系一次元金属の熱電性能とその起源が明らかになる可能性がある。
|
今後の研究の推進方策 |
CaCo_2O_4のNa固溶置換体Ca_<1-x>Na_xCo_2O_4(x<=0.5)の良質試料を用いて、電気伝導率と熱起電力の精密な測定と制御を行う。中性子回折データの詳細な解析を行い、構造パラメータの精密化を行う。さらに、そのパラメータを用いてバンド計算を行い、電子状態を推定する。最終的に、光電子分光・赤外分光を行い、電子状態を決定する。コバルト酸化物一次元金属の熱電特性を、電子構造の観点から理解する。
|