本研究は、新規高性能熱電材料の創製を目指し、その設計指針を構築するために、物質の電子構造の観点から異常熱起電力の発現・制御機構を明らかにすることを目的とするものである。具体的には、CaCo2O4等の低次元系磁気相関酸化物を用い、固溶置換体の作製によるバンドフィリング、バンド幅・形状制御を通じて、異常熱起電力の制御を行う。さらに、その物質評価と物性評価を行うと共に、バンド計算による電子構造の解析を行い、線形応答理論や電子相関の観点から異常熱起電力の起源を明らかにする。 CaCo2O4に関して、H24年度は、Na置換体Ca1-xNaxCo2O4 (0<=x<=0.6)の良質試料を用いて、中性子回折、比熱、赤外吸収、磁化率、交流電気抵抗率、ゼーベック係数、熱伝導度などの測定通じて、より進んだ物性評価を行った。その結果、Na置換量に対して、ホールが系統的にドーピングされており、x>=0.5で金属・絶縁体転移(M-I転移)を起こし、金属相になることを確定した。また、中性子回折から決定した精密な結晶構造パラメータを用いて第一原理計算を行ったところ、CaCo2O4に対し、リジッドバンド的ホールがドープされると、フェルミ面の形状は、ホールポケット状(三次元伝導)から平行平板状(一次元伝導)へと変化することを明らかにした。高ホール濃度相では、大きな一次元的フェルミ面の形成と、Γ点から伸びる平坦な一次元バンド分散によって、高い電気伝導率と大きな熱起電力が実現できると示唆される。実際に、Na0.4Ca0.6Co2O4の室温付近の電気抵抗率とゼーベック係数は、よく知られている巨大熱起電力物質Ca3Co4O9の値に匹敵するものであることが判明した。 その他に、スピン・軌道相互作用誘起モット状態やスピンフラストレーションなどの観点から得た新規化合物の評価も行った。
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