本研究はDyなどの重希土類元素(HRE)の使用を極力低減するための重要な技術であるDy粒界拡散型ネオジム(Nd-Fe-B)焼結磁石の保磁力発生機構の指導原理の獲得を最終目標とした.そのための手法として,薄膜プロセスによって保磁力を増大させるNd2Fe14B粒子と希土類(DyとNd)被覆層のモデル界面の形成を目指し,以下の3つのシリーズの薄膜を作製することで,その構造と磁気特性の関係について検討した.シリーズIでは,高真空スパッタ法を用い,1 μm厚のNd2Fe14B厚膜へ200 nmのDy層を被覆し,真空中アニールをすることにより,保磁力増加量ΔHc = 11 kOeを確認した.さらに,シリーズIIでは,チャンバー内残留酸素を低減した超高真空成膜装置によって,高c軸配向したNd2Fe14B微細粒子の成長に成功し,Dy層被覆とその場ポストアニールにより,ΔHc = 6 kOeを確認した.また,シリーズIIIではDyの置換とNd粒界相の両効果を検討するため,シリーズIIと同様に高品位Nd2Fe14B粒子を成長させ,この上へDy/Nd二重被覆層を形成しその場ポストアニールすることで,ΔHc = 17 kOeに至る大きな保磁力増大現象を実証した.以上の一連のモデル試料を用いた実験から,表面近傍のNdの一部がDyと置換したNd2Fe14B粒子が単磁区臨界寸法以下まで微細化され,これと接して界面を形成する非磁性Nd金属粒界相の存在によってNd2Fe14B微細粒子同士の磁気的交換相互作用が,抑制されたことで保磁力が増大したことが示唆された.このことから,Dy粒界拡散型Nd-Fe-B系永久磁石において保磁力を増大させるための主な条件は,第一に主相となるNd2Fe14B粒子サイズの微細化,第二に主相粒子表面近傍のNdのDy置換,第三としてNd金属からなる非磁性粒界相の存在である.
|