二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとしての水素を有効に利用するためには、それを効率的かつ安全に貯蔵・輸送するための液化水素容器または高圧水素容器が不可欠である。本研究では、水素の普及を飛躍的に拡大すべく、水素の貯蔵・輸送時の安全性に深く係る金属の水素脆化の機構を解明するために、微視的に水素が金属のどのような場所に存在するのかを水素の放射性同位体であるトリチウムを利用したトリチウムオートラジオグラフィにより明らかにしようとしている。今年度は、アルミニウム基材料(99.99%純アルミニウム、6061合金、7075合金)について、トリチウムをチャージしながらき裂先端に引張応力を負荷し、水素脆化き裂が進展した段階で、試料を液体窒素で冷却し、水素の拡散を停止させる。そしてその状態でトリチウムオートラジオグラフィを行い、き裂近傍の水素の分布を調べようとした。また比較のため引張応力を負荷しない場合の水素の挙動についても同様に調べた。 まず無応力の場合については、6061および7075合金では粗大な金属間化合物相(晶出第二相)から水素が侵入し、これが侵入環境(水素ガスか水か)によらないこと、第二相が存在しない純アルミニウムでは水素の侵入が見られないことを明らかにした。進展き裂近傍の水素分布を観察しようと試みたが、トリチウムから放射されるβ線以外の何らかの化学的反応により、観察面に被覆した写真乳剤が感光してしまい、データが得られなかった。
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