二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーとしての水素を有効に利用するためには、水素により材料が脆くなる水素脆化を防止する必要があり、そのためには、引張応力が負荷されているときに材料に侵入・移動する水素(拡散性水素)の挙動を解明しなければならない。本研究では、水素の存在場所を金属組織との対応で明らかにする手法により、拡散性水素の挙動に関する基礎的知見を得ようとした。 手法として、水素の放射性同位体であるトリチウムを利用したトリチウムオートラジオグラフィにより調査した。この方法では、引張応力が負荷されている状態で試料を液体窒素温度まで冷却し、拡散性水素の存在位置を凍結して観察することが可能である。 水素脆化が報告されているフェライト系のSUS430J1Lステンレス鋼、Al-Zn-Mg系合金(実用7075合金とAl-Zn-Mg合金)を対象として、三点曲げにより0.2%耐力の9割の応力を負荷し、その際の水素侵入挙動を、無負荷の試料の水素侵入挙動と比較した。 SUS430J1L鋼では、無負荷材で水素が検出されず、応力負荷材で粒界および粒内に水素が検出された。水素量は粒内より粒界の方が多かった。侵入した水素の多くは粒界へ移送され、粒界にトラップされたと考えられた。 Al-Zn-Mg系合金でも応力負荷により水素の侵入量が増加した。侵入位置は、実用のでAl-Cu-Feからなる第二相(7075合金のみ)および母相であった。ここではAl-Cu-Fe、および粗大な未固溶のMgZn2相以外の相は、分解の能関係で識別できていない。したがって今回母相と分類された侵入サイトも厳密には、粒界・粒内に析出したMgZn2相、Crを含む分散相、粒界、転位線のいずれかである可能性がある。
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