研究概要 |
導電性と強度のバランスに優れたCu-Ni-Si合金の単結晶をブッリジマン法にて育成し,主すべり系のシュミット因子が最大となる[419]方位を試料長手方向に選択して試験片を切り出した.溶体化処理の後,773Kで1.8ksの時効加熱処理を行い,Ni_2Si粒子を析出させた.電気抵抗率測定により求めた試料中の粒子の体積率は,約1.8%となった.塑性ひずみ振幅を2.5×10^<-4>からLO×10^<-2>の範囲で一定に制御し,室温にて疲労試験を行った.積算総ひずみが4に到達した時点で試験を終了し,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて,主すべり面がedge-onになる条件で組織観察を行った。特に観察にあたっては,転位による析出粒子のせん断の様子,固執すべり帯(PSB)の形成の有無に着目した。疲労試験を行った結果,塑性ひずみ振幅が2.5×10^<-4>以上で繰り返し軟化が生じた.繰り返し硬化/軟化曲線に現れる最大応力振幅値は,塑性ひずみ振幅によらず125MPaの一定値(プラトー)を示した.TEM観察の結果,繰り返し軟化を示した試料には,幅25nmのPSBが主すべり面に平行に形成されており,PSB内ではNi_2Si粒子が母相に再固溶して"無析出帯"となっていた.強化機構として,Cu-Ni-Si合金の強化相であるNi_2Si粒子が繰り返し変形中に転位によりせん断され,粒子内に逆位相塊界が生じることを考えると,疲労試験によって得られたプラトー応力が説明でき,このプラトー応力の析出粒子体積率依存性も定量的に説明できる.本研究では,析出強化型銅基合金の繰り返し変形に伴う軟化の原因を明らかにし,耐疲労特性向上の指針となる知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初に計画していた,析出粒子を含む銅基合金単結晶の繰り返し変形は,順調に進行しており,次年度に向けて,研究の取りまとめに移行する段階にある.
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今後の研究の推進方策 |
バルク単結晶を用いた銅基合金の疲労試験に加えて,厚さ数10ミクロン程度の箔の繰り返し変形挙動にも研究を発展させる予定である.疲労試験そのものは順調に実施できていることから,現有設備を有効に活用し,研究を遂行する.なお,成果の公開にも積極的に取組み,論文誌への投稿,ホームページでの成果公開にも努める予定である.
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