今年度に得られた研究成果は以下のようである。 1. まず、使用する金属酸化物を、強酸性下で化学的に安定であり、比較的高い擬似容量を示すことから、酸化スズ(主としてSnO_2)に絞り、その作製法を検討した。作製手順として、まず一定量の塩化スズ(SnCl_2)をエタノールに溶解後、水を加え、pH調整し、放置することによりコロイド溶液を作製した。このコロイド溶液をろ過後、得られた試料を溶媒で洗浄し、さらに溶媒を十分に除去するために、空気中で自然乾燥(1日)あるいは真空乾燥(30分)を行った。得られた粉末試料のSEM観察の結果、自然乾燥した試料では、粒子の凝集や増大が起こり、粒径が数μm以上の大きな粒子が多数見られた。一方、真空乾燥した試料では、ほとんどが数十から数百nmの粒径の小さな粒子が観測された。X線回折から真空乾燥した試料は主としてSn_6O_4(OH)_4相から成ることがわかったが、これを空気中で熱処理(400℃、2h)することにより、粒子径はほとんど変化せずに、SnO_2相に変化することが明らかとなった。 2. この熱処理した試料を市販のPt/GC触媒と体積比で1:1になるように混合し、電極を作製した。サイクリックボルタンメトリー(0.1 M HClO_4中)では、酸化スズを混合することでPtの電気化学活性表面積はほとんど変化しないが、二重層領域の容量(capacitance)が約1.4倍に増大することを見出した。また、電極に一定のアノード電流を流したときの電位応答を観測した結果、Pt/GC触媒に酸化スズを混合することにより、電位上昇がかなり抑制されることが明らかとなった。これは、酸化スズの混合により電極の容量が増大したためであり、燃料電池の起動停止時におけるカソードの電位上昇を抑制し、カーボン酸化(腐食)を低減する可能性を示唆するものである。
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