今年度得られた主な研究実績は以下の通りである。 前年度に良好な特性を見出した三次元的な連珠構造を有する火炎法で作製したニオブドープ酸化スズ(Nb-SnO2)を市販のPt/カーボンブラック(CB)あるいはPt/黒鉛化カーボンブラック(GCB)触媒と混合(体積比1:1)し、これをカソード触媒層に用いて膜電極接合体(MEA)を作製した。起動停止模擬試験では、水素と空気を自動で30秒毎に交互にアノードに導入するコンピュータ制御のシステムを構築し、耐久性試験(65℃、100%RH)を行った。 その結果、いずれのMEAの場合でも水素と空気の導入の切り替えにより、それぞれセル電圧の上昇と低下が交互に観測された。Pt/CBにNb-SnO2を添加した場合、基本的に無添加のものと同等の良好な初期電流-電位(I-V)特性を示すことがわかった。しかし、起動停止模擬試験では、100サイクル程度までは電気化学的活性表面積(ECA)の減少率がNb-SnO2添加により若干抑えられたものの、顕著な耐久性の向上は見られなかった。一方、Pt/GCBにNb-SnO2を添加した場合は、初期のI-V性能は少し低下したものの、サイクリックボルタモグラムでの二重層電流が2倍に増加した。また、起動停止模擬試験では、200サイクル以降でECAおよび質量活性の減少速度が明らかに抑制され(ECAの半減期は約1.5倍向上)、Nb-SnO2の添加効果が実証できた。さらに、試験後のMEAのSEM、EDX、ラマン分光分析により、触媒層の薄層化やカーボン担体の劣化が抑制され、Ptバンドの電解質膜内部への広がりも抑制されることを見出した。これらの結果は、Nb-SnO2の疑似容量がカソードの電位上昇を抑制し、カーボン劣化を抑制したことを強く示唆している。
|