研究概要 |
前年度は,欠損を有するクラスレートK8Sn44が320 K付近にある構造変化の前後で性能増大を引き起こすことを再現性よく示した。今年度は,さらなる増大や他系への応用を目指すべく,理論・実験の両面から,そのしくみの解明に迫った。以下に説明する。 理論面ではWien2kプログラムを用いてFLAPW法によりK8Sn44の電子構造を計算した。その結果,欠損をもたないK8Sn46に比べると,K8Sn44のバンド構造はそのバンドギャップ近傍に準位が形成されるためバンドギャップがほとんど開いていないこと,また,バンドギャップ近傍のバンド構造は欠損の配置に強く依存することがわかった。これらは,おそらく,実験で得られている性能増大に関係していると思われる。 一方,実験面では,この研究での一つのキーである,フェルミ準位を動かすためにキャリア密度を調整すべく,その作製条件を種々に変えて試料を作製し,それらに対して測定範囲や手段を変えて特性評価を行った。その結果,試料のキャリア密度が小さいほど,構造変化の際の性能増大の度合いがより大きいことがわかった。これは,フェルミ準位がバンド構造の適当な位置にあるためであると考えられる。ただし,観測された性能増大は当初の期待よりも小さいものに留まっている。検討の結果,この増大は高温相で観測されるため,試料を昇温する際にSnが試料表面に浸み出し,それが電気的短絡を引き起こすのが原因であることを突き止めている。防止策として,構造安定化のための原子置換(Sn→Ge)や表面保護膜の形成などを試したが,まだ上手くいっていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論面では,電子構造計算により,構造変化に伴う性能増大を説明するような電子構造の変化に関して見通しを得ている。一方,実験面においては,性能増大を再現性よく得ている。ただし,その性能増大を打ち消す働きをする,試料表面へのSnの浸み出しが起こり,十分な性能を得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の計画に従って研究を進めていく。なお,上記の問題点への対策として,これまでの延長線上のやり方とともに,別途,Snの浸み出しが生じないような,例えば,K8Ge44系を対象にした実験を行う。
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