研究概要 |
最終年度は,K8Sn44□2(□は欠損)における欠損配置を調べるために,その結晶構造等の評価を行った。また,さらなる性能改善を目指し,原子置換系の試料作製と諸特性の測定を行った。以下に説明する:(1)X線回折測定により,K8Sn44□2の単位格子は,室温においては,基本構造のcP52ではなく,その基本構造が8個集まった2x2x2超構造のcI416であることがわかった。これにより欠損配置の規則化が明らかとなった。今回得られた結晶構造パラメータを用いて計算した電子構造においてもバンドギャップがわずかに開いた半導体であり,前年度の計算結果とも傾向が一致した。(2)示差走査熱量計(DSC)を用いた熱分析では,K8Sn44□2では320 K付近に吸熱を表すピークが現れた。この温度はサンプルの熱電気的特性が変化する温度と一致しており,相転移温度であると考えられる。(3)Snを同じIV族元素のGeで置換したK8Sn44-xGex□2 (x = 0, 2, 4)焼結体試料を作製した。Ge置換量が多いほど,K8Sn44□2で観測された電気伝導率の急激な上昇等の熱電特性の変化の度合いが小さくなった。これはカゴ格子上のSn原子の一部がGe原子で置換されているために,原子移動が抑制され,欠損配置が秩序化しないからであると思われる。Ge置換は,高い熱電性能が出現する無秩序相の固定化に有効である。(4)SnをIII族元素のGaで置換した(K8Sn44□2)1-x(K8Ga8Sn38)x焼結体試料を作製した。K8Ga8Sn38置換量が増えると,電気伝導率に及ぼす粒界散乱の影響が大きくなった。逆に言えば,III族元素を含まないK8Sn44-xGex□2焼結体においては粒界散乱は生じていない;つまり,それらは安定な結晶構造であると考えられる。
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