研究課題/領域番号 |
22560709
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
板倉 明子 独立行政法人物質・材料研究機構, 表界面構造・物性ユニット, グループリーダー (20343858)
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キーワード | 水素 / 表面応力 / 電子衝撃脱離 / ステンレス鋼 |
研究概要 |
材料科学において鋼等を脆くする"やっかいもの"である水素の、鋼内表面近傍での挙動を電子励起脱離法によって直接的、定量的に観察し、存在位置と含有量を明らかにする。 ステンレス鋼表面に水素(活性水素ガス)を照射し、含有水素が表面あるいは鋼内に作る応力を測定する。表面応力を利用すれば金属材料に水素が入り込んでいく様子を、実時間で、安価にモニターできるはずである。また、鋼のどの部分に水素が含有されるかについては、電子衝撃脱離(以下ESD)の二次元像から確認する事が出来る。ステンレス鋼について表面応力および、ESDを測定した。 水素プラズマ照射中の表面応力は、表面が伸びる方向に発生し(圧縮応力)、しかしながら、水素照射をやめ表面から水素が再び脱離してからも、ゼロに戻ることはなかった。また、繰り返し照射をすると応力が現れなくなることから、水素が鋼の構造に変化を起こしたと考えられる。 ステンレス薄板の背面から水素を供給し、反対面からのイオン放出をESDで測定した時、300度で脱離量が増え、より高温にすると低下するという結果を得た。文献値からの計算と比較して反対面からの水素の透過と考えられる。しかし、放出量の低下(初期値以下まで)に関して説明が出来ない。可能性としては熱で表面偏析した層が、水素の拡散バリアとなって、放出量を減らしている可能性がある。このため、今オージェ電子分光(AES)による表面チェックが必要となる。なお、SUSからの硫黄層の偏析は、より高温(300度では大量には偏析しない)で起こるはずだが、水素を大量に含んだ薄板の中で、硫黄の拡散が有機された可能性も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子衝撃脱離の装置の改造などで、非常に好調に測定データなどを集めていたが、昨年の震災時の際に、継続したデータを獲ることが難しくなり、遅れを余儀なくされた。しかしながら、昨年の初めのデータの蓄積などがあったため、目に見えた遅れにはならなかった。
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今後の研究の推進方策 |
水素の吸着、拡散、脱離を考えた時、ダイナミカルな鋼材の構造変化が問題になってくることがわかった。特に、高温度を上げた時に偏析の影響などが出てしまい、偏析層がもたらす水素放出量低減の問題を無視できなくなった。表面構成原子のオージェ電子分光法による測定や、水素を繰り返し照射した後の試料をX線の構造解析にかけるなどの追加実験が必要となっている。
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