今年度は、金属アルミニウム板、ステンレス板、ポリイミド膜の表面に低温で炭化珪素薄膜を形成する条件を探索した。表面活性化の手段としては、低温シリコン薄膜形成、Arプラズマ、の両方を用いた。(1)低温シリコン薄膜形成については、トリクロロシランを用いて600℃においてシリコン薄膜を形成し、そのまま水素中で室温に冷却してモノメチルシランガスを導入した。その試料についてToF-SIMSを用いて深さ方向の分布を調べたところ、シリコン中間層が金属酸化物の表面に形成され、その上にSi-C結合を持つ物質の層が形成されていることが確認された。シリコン中間層上に形成されたSiC膜については、断面TEMによる観察も実施し、シリコン中間層が結晶性であること、炭化珪素膜が非晶質であることが確認された。(2)Arプラズマについては、平成22年度に購入して立ち上げたソフトプラズマエッチング装置を使用した。金属アルミニウム、ステンレスについて、アルゴンプラズマを照射した後にCVD反応容器に素早く搬送し、室温においてモノメチルシランガスに暴露した。ToF-SIMSを用いて深さ方向について調べたところ、アルミニウム基板ではアルミニウム酸化物表面に炭化珪素を含有する層が形成されていることが把握された。ステンレス表面については、カーボンだけしか観察されなかったため不成功であった。そこで、Arプラズマによる表面清浄化・活性化を行った後、大気に晒すことなく、その装置内においてモノメチルシランガスを導入したところ、ステンレスの表面に残留していた鉄酸化膜の表面に炭化珪素を含有する層が形成されていることがToF-SIMSにより把握された。同じ方法によりポリイミド膜表面に炭化珪素膜を形成することを試みたが、これについては成功しなかった。分子構造が硬いため、アルゴンプラズマにより活性化が不充分であったものと推定された。
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