AEを用いた工具材料の疲労評価システムを構築した.その応用例として,近年鍛造用工具に多く用いられている硬質被膜について,そのはく離挙動を評価した. 評価手法としては,硬質被膜のはく離挙動評価に多く用いられているスクラッチ型はく離強度評価試験を用いた.すなわち,市販のスクラッチ試験機(CSM Instrument社製 Revetest Xpress)に,本研究課題にて作成したシステムによるAE振幅のフラクタル次元を測定し,はく離の予測が可能かどうかを調べた.母材はSKD11,被膜はTiNおよびDLC-Siを用いた.スクラッチ距離は5mm,最大押込み荷重は50Nとした.AE測定の対照実験として,試験機に付属しているAE装置によるAE数の変化も調べた. その結果,フラクタル次元に基づくはく離挙動評価では,はく離の生じない荷重域でのばらつきが大きく,はく離評価の信頼性があまり高くないことがわかった.他方,対照実験として測定したAE数については,その変化とはく離発生との相関はフラクタル次元による評価よりは高かった.しかし,両者とも,明確なはく離挙動の予測には限界があり,はく離の様相の微視的観察を加えた総合的な評価が必要になることが明らかになった. フラクタル次元に基づくはく離挙動評価における,はく離の生じない荷重域での値のばらつきの原因は,AE発生数の不足であり,それにより信頼性のあるフラクタル次元の計算ができなかったことがわかった. 以上より,本手法は,ある程度AEの発生の見込める状態が継続するような状態において有効であるとの結論が得られた.
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