はんだ接合部におけるエレクトロマイグレーション(以下EMと略す)現象は、古くから研究されてきた半導体内の微細配線のそれとは異なり、構成する元素が多種であある。そのため元素の組み合わせ、あるいは温度・電流密度などの外部変化の変化により、現象が変化することをこれまでに調査してきた。例えばSn-Ag系はんだとCu電極との接合部においては、160℃で15kA/cm^2程度の電流密度でははんだ中のSnが電子の流れと同方向にマイグレーションするのに対し、25kA/cm^2程度まで電流密度を上昇させると、Snはマイグレーションせず、代わりにCuがはんだ中を通って電子と同方向にマイグレーションする。従って、マイグレーションを抑制する対策として、それぞれの現象に応じた対策法を検討する必要がある。前者については、製品化する際に一般的に用いられるアンダーフィルにより、抑制することができると考えられているが、後者については必ずしも確立された手法はない。 そこで本研究では、熱拡散の抑制に用いられるバリア層に着目し、Cuのマイグレーション抑制に対する効果を調査した。その結果、NiおよびAgがともにマイグレーション抑制に効果があることが明らかとなった。しかし、その抑制メカニズムは異なり、Niは電流印加によりマイグレーションするものの、その速度がCuに比べて遅いために結果としてNiバリア層が消滅しにくく、CuのEMを抑制する。それに対しAgは、はんだ中を越えてEMすることはなくAg3Sn界面反応層として両電極表面に残存することから、CuのEMを抑制した。このような挙動の違いは、EMの速度論、および熱拡散で用いた拡散係数で整理が可能で、自己拡散係数が遅い、あるいははんだ中の不純物拡散係数が小さい元素が、バリア層として有効であるという、バリア層設計の指針を示した。
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