目的の元素を含む有機金属化合物ガスを基板上に極少量流し、そこへ細く収束した電子ビームを照射することで、ガスを分解し、目的の元素を局所的に蒸着する方法は電子線誘起蒸着法(EBID)と呼ばれ、目的の場所へサイズや形状を制御してナノ構造を作製できる手法として有望である。本研究では、このEBID法を用いて、炭素や金属酸化物を蒸着して、ナノセンサーの作製技術に貢献することを目的とした。 今年度は、酸化モリブデンナノワイヤーを作製して光センサーへの応用を目指す研究と、炭素を局所的に蒸着することでナノ接着剤として利用する2つの研究を行った。 まず、EBIDで酸化モリブデンナノワイヤーを作製するときの条件について検討した。その結果、モリブデンカルボニルを原料とした場合には、作製されたナノワイヤーは金属的な電気伝導特性を示したが、モリブデンカルボニルに酸素を混合したものを原料とした場合には、その比率が1:1から1:3の範囲で、すべて半導体的な電気伝導特性を示し、また光照射によってその電気伝導率が変化する特性があった。よって、ガスの混合比による大きな影響はなく、ナノサイズの光センサーとして利用可能であることが明らかとなった。 つぎに、フェナントレンを原料として炭素を蒸着する研究を行った。EBIDで蒸着した炭素試料についてマイクロラマン分光により結合状態を調べた結果、この炭素はダイヤモンドライクカーボンであることが明らかとなった。また、市販のナノ粒子を基板上に分散し、その中の1つを覆うようにEBIDで炭素の極薄い膜を作製し、その後、他のナノ粒子を洗い流す方法で、目的の粒子だけを基板上に残す技術を確立した。これにより、金ナノ粒子を用いた光プラズモンセンサーの作製に貢献できると考えている。
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