本研究では、環境に優しい水素エネルギーを広範囲に利用するために、安価な燃料電池用金属セパレータの実用化を目指して新規表面処理法を開発することを目的とし、(1)表面処理によって耐食性が劣化しないこと、(2)量産化に適すること、(3)貴金属などの高価な物質は使用しないこと、(4)耐水素脆性が向上することを前提として、新しい表面処理の開発を試みた。これらの前提を満足する方法として、ステンレス鋼を素材とし、その後、ブラスト処理→黒鉛粒子の塗布→冷間圧延を行うことによって、表面層に圧縮ひずみを付与し、表面酸化皮膜の除去と黒鉛粒子の付着を行う。つまり、耐食性に優れるステンレス鋼を素材とし、電気抵抗の増大をもたらす表面酸化皮膜をブラスト処理によって除去した後、電気抵抗が小さく耐食性に優れる黒鉛粒子を塗布し、それを冷間圧延によってステンレス鋼表面に固着させる。ステンレス鋼と黒鉛粒子によって耐食性を確保するとともに、ブラストによるステンレス鋼表面層での圧縮ひずみの発生によって耐水素脆性の向上を、黒鉛粒子の付着によって電気伝導性の向上をそれぞれ図る。このような新しい表面処理を実証化するための第一歩として、黒鉛粒子とアルコールを適当な割合で混合した溶液を塗布、あるいはその溶液中に浸漬することによって、SUS304ステンレス鋼表面に黒鉛粒子を比較的均一に密着できることが明らかになった。また、本補助金で購入した超高真空卓上型ランプ加熱装置を組み込んだ昇温脱離型水素分析装置用いて、SUS304ステンレス鋼での水素分析を行い、ステンレス鋼での水素分析法として昇温脱離水素分析法が極めて有用であることが明らかになった。一方、入手可能な黒鉛粒子は粒度が小さく、ブラスト処理に適さないことも明らかとなった。
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