耐食性と電気伝導性に優れ、低コストの固体高分子形燃料電池用金属セパレータの開発を目指して、ステンレス鋼表面への黒鉛粉末付着処理を試みた。耐食性に比較的優れるSUS304ステンレス鋼を素材とし、表面抵抗の増大をもたらす酸化皮膜をブラスト処理によって除去した後、電気抵抗が小さく耐食性に優れる黒鉛粒子を塗布し、それを冷間圧延によってステンレス鋼表面に固着させる。ステンレス鋼と黒鉛粒子によって耐食性を確保し、ブラストによる圧縮ひずみの発生によって耐水素脆性の向上を、黒鉛粒子の付着によって電気伝導性の向上を図ることを試みた。 黒鉛粉末(75~106μm)をアルコール中に分散させた溶液に浸漬することによって、SUS304ステンレス鋼表面に黒鉛粒子を比較的均一に付着させることができた。黒鉛粒子付着後の鋼板を新しい鋼板で挟み込み、それら3枚の鋼板を半田付けで固定した後、冷間圧延することによって、黒鉛粒子が強く付着したステンレス鋼板を作製できた。このことから、固体高分子形燃料電池用金属セパレータの表面処理法として、黒鉛粉末とアルコールを混合した溶液に浸漬し、黒鉛を付着した後、冷間圧延する方法が有望であることが分かった。 自作した昇温脱離型水素分析装置用いてSUS304ステンレス鋼での水素分析を行い、カソード分極によって多量の水素がステンレス鋼に侵入することや、それら水素の大部分は室温放置によって放出されることなどが分かった。さらに、冷間加工と水素導入に伴ってSUS304ステンレス鋼でのマルテンサイト変態が起こることも分かった。一方、酸化皮膜の除去と圧縮ひずみ導入に適するブラスト処理条件を見出すことはできなかった。また、カソード分極によって水素を導入するとSUS304ステンレス鋼の伸びが激減すること、つまり水素脆性が起こることは分かったが、水素脆化機構を解明するまでには至らなかった。
|