研究課題/領域番号 |
22560736
|
研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
伊東 富由美 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (10549489)
|
研究分担者 |
福岡 克弘 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (40512778)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | マイクロカプセル / 磁性粉 |
研究概要 |
磁粉と蛍光色素が分離するという磁粉探傷試験(MT)の問題点を解決し磁粉探傷試験手法と、渦電流探傷試験(ECT)を組み合わせる事により、より高精度な蒸気発生器伝熱管用非破壊検査技術の実現を目指す事が目的である。意義は重大な事故を未然に防ぐ事であり、重要性は材料の磁気特性や微小な欠陥形状に変化を受けやすいECTの問題点を改善する事である。 MTの問題である磁粉と蛍光色素の分離を防ぐために、これら2種類を内包したマイクロカプセルの作製を行なった。1段階目として既にMTに用いられている蛍光磁粉を用いた。蛍光磁粉をポリビニルアルコールに分散させ、核融合用マイクロカプセルの作製と同様の方法で行なった。カプセルに内包する蛍光磁粉の濃度は0.1、0.2、2.0、6.8、10、20wt%とした。その結果、内包する濃度が低いほど真球度の高いマイクロカプセルが得られ、一方濃度が高いほど楕円形状のカプセルが得られ、加えて長期間放置後保管液が濁った状態となり、濃度の上限が存在する事を確認した。また漏洩磁束が人工欠陥に対して垂直になるように磁化器(1099AT)を設置し、作製したマイクロカプセルを塗布した。その結果、カプセルに内包する蛍光磁粉の濃度が0.1、0.2、2.0wt%のマイクロカプセルは人工欠陥周辺部に集合しなかった。これらの結果から、磁化器(1099AT)を用いる場合、カプセルに内包する蛍光磁粉の濃度は6.8wt%が妥当である。 次の段階として、ポリビニルアルコールに蛍光色素を溶解させ、さらにこのポリビニルアルコールに四三酸化鉄分散液を混合させ、マイクロカプセルに内包した。その結果、既存の蛍光磁粉を内包したマイクロカプセル崩壊したカプセルを見分ける事が困難であったが、予めポリビニルアルコールに蛍光色素を溶解した場合、崩壊したマイクロカプセルは容易に見分ける事が出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1インチ伝熱管に挿入可能でかつ周方向の欠陥検出が可能な磁化器の設計を行った。磁粉液を散布するノズル、欠陥部を観察するための光ファイバを考慮すると、磁化器のサイズは高さ15mm・長さ50mm・幅8mmとなり、この部分に銅線を巻きつける構造である。 一方、マイクロカプセルに内包する蛍光磁粉の濃度とマイクロカプセルの真球度とのスケール則を実験的に明らかにしたことにより、MTに最適な蛍光磁粉マイクロカプセルの作製パラメータに関する指針を得ることができた。この指針をもとに、磁化器(1099AT)を配管の切断面に設置した状態で蛍光磁粉マイクロカプセルの性能試験を行なった。その結果から、特定の欠陥へ集中しやすい最適な磁粉濃度が存在する事を明らかにした。マイクロカプセルに内包する蛍光磁粉密度が6.8wt%の時に人工欠陥部に集合し、かつ紫外光を発光することにより明瞭に位置を特定することができた。この蛍光磁粉マイクロカプセルを用いることにより、磁粉と蛍光色素の分離を防ぐことが可能となり、MTの問題の解決に1歩前進することができた。MTに用いる蛍光磁粉マイクロカプセルは大量に必要であり、加えて崩壊したマイクロカプセルを除去する必要がある。ポリビニルアルコールに蛍光色素を溶解した場合、崩壊したマイクロカプセルを容易に見分けることが確認できた。H25年度は真球度の高いマイクロカプセルと崩壊したマイクロカプセルの分離を行なうことでMTの問題を解決する。 1インチ伝熱管に挿入可能な磁化器の設計および市販の磁化器(1099AT)を用いた蛍光磁粉マイクロカプセルの性能試験の結果から微小欠陥の検知や検査後の欠陥補修にも有利なSG伝熱管磁粉探傷試験に向けて着実に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
1インチ伝熱管に挿入可能かつ、試験体の飽和磁束密度を1.7~1.8T以上になるように磁化するためには、φ70mm×50mmサイズの磁化器より更にコイルの巻き数を多くすることと電流を高くする必要があり、長時間電流を流すと断線の恐れがある。この問題を解決するために、長さ方向の限度および断線に耐える発熱温度の調査を行なう。加えて外部からモールドされた電磁石部分のみ液体Heを流し込み発熱温度を低下させる機能を検討する。 一方、蛍光磁粉マイクロカプセルはH24までに、崩壊したマイクロカプセルを容易に見分けることができた。H25は真球度の高いマイクロカプセルと崩壊したマイクロカプセルの分離を行なうことを中心に研究を進める。最初に振るいにかけて分離を試みる。崩壊したマイクロカプセルに内包した磁粉のサイズは最大で60μmであり、マイクロカプセルのサイズは100μm~500μmである。そのため振るいによりおおまかに分離することが可能である。次に、カプセルは水相1/オイル相/水相2で構成されており、崩壊した際に水相2のポリビニルアルコールは水相1に溶解し、蛍光磁性粉はオイル相に付着する可能性がある。オイル相に付着した蛍光磁性粉のサイズを特定することが困難なため、真球度の高いマイクロカプセルと崩壊したマイクロカプセルをエタノール(密度:0.789g/cm3)に浸し、水相2をエタノールに置換する。真球度の高いカプセルと崩壊したカプセルを水相1に挿入すると、真球度の高いカプセルは水より密度が低いエタノールが内部に置換されているため、カプセルが浮くと予想する。この結果、浮遊したマイクロカプセルのみを取り出すことで分離が可能と予想する。 この研究開発を行なうことで、発熱による断線を防ぎ、長時間の検査が可能な磁化器が作製できると予想し、1インチ伝熱管の検査補修技術の高度化の実現に一歩近づくことができる。
|