研究概要 |
SUS316Lのプラズマ溶射皮膜の耐摩耗性を向上させるために,低温プラズマ窒化処理を行い窒素過飽和固溶体である拡張オーステナイト(S相)の形成,およびS相の生成機構の解明を行った. はじめに,プラズマ溶射の条件であるSUS316L溶射粉末の粒径,プラズマトーチへの投入電力,プラズマガス流量および溶射距離が溶射皮膜中の酸化物および気孔へ与える影響について検討した. 次に,1つの溶射条件を選定してSUS316L溶射皮膜を作製し,低温プラズマ窒化処理を623Kから773Kの温度範囲で行った.窒化処理温度673Kおよび723KにおいてS相の生成がX線回折により確認された.この処理温度はSUS316L鋼材においてS相が生成する温度と同じであった.しかし,溶射皮膜中の酸化物が窒素拡散の障壁となり,組織観察によるS相の厚さはSUS316L鋼材より薄かった. そこで,溶射粉末の粒径およびプラズマトーチへの投入電力の異なる溶射皮膜を低温プラズマ窒化処理することで,S相の厚膜化を試みた.その結果,SUS316L鋼材よりもS相を厚くすることに成功した. S相は窒素の固相拡散により形成するが,窒素の拡散機構がSUS316L溶射皮膜とSUS316L鋼材では異なることが認められた.鋼材は従来報告されているように鋼中の固溶Crにより窒素がトラップされるため,窒素の深さ方向分布はFickの第二法則に適合しない.一方,溶射皮膜は鋼材よりもトラップの程度が弱く,そのため窒素が溶射皮膜の内部までより深く拡散することが明らかとなった. これらにより,SUS316L溶射皮膜に十分な厚さを有するS相の形成を達成した.
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