本年度は、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)熱電材料のレーザー光照射による表面改質とRFマグネトロンスパッタ法により作製したMg2Si薄膜の熱電特性について検討を行った。その主な研究成果は、下記の通りである。 1.連続波Ybファイバーレーザー光(波長1070 nm)を放電プラズマ焼結法で作製したMg2Si焼結体に照射し、レーザー光の走査速度、強度などの照射条件と微細組織との相関を調べた。真空中、走査速度5 mm/sで照射した時、Mg2Si焼結体に形成された溝の幅、深さはレーザー強度に強く依存した。レーザー強度の増大に伴い照射部の試料温度が上昇するため、溝内部およびその周辺にクラックが多数発生した。レーザー強度を3~10 Wの出力で高密度焼結体に照射した時、照射部に数百nmサイズのナノピラーが形成されており、その直径、高さはレーザー強度に依存することが明らかとなった。一方、低密度焼結体では、形成される溝深さは増大したが、単位面積当たりの試料温度の上昇が抑えられたため、試料の一部に溶融した様子が観察されたものの、ナノピラーの形成は認められなかった。 2.RFマグネトロンスパッタ法により作製したMg2Si薄膜の電気抵抗率、ゼーベック係数の温度依存性をバルク焼結体の値と比較した。Mg2Si薄膜のゼーベック係数は、室温~723 Kの温度域でバルク試料とほぼ同じ値を示した。一方、室温~573 Kの低温度域の電気抵抗率は、薄膜の方がバルク試料よりも大幅に高い値を示したが、673 K以上の高温度域においてほぼ同じ値を示した。このことから、高温度域でのMg2Si薄膜のパワーファクターはバルク材料とほぼ一致することが明らかとなった。
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