近年、プリンタなどで普及しているインクジェット技術を電子デバイス製造プロセスに応用する試みが行われている。このプロセスでは、ノズルから吐出された機能性溶液の微小液滴を基板に着弾させ、溶剤の蒸発・乾燥を経て機能性薄膜を形成させる。このとき、厚みが均一かつ任意形状の薄膜を形成させることが望まれている。そこで本研究課題では、機能性溶液滴の蒸発・乾燥過程における熱・物質移動現象を実験および数値解析の両面から検討し、薄膜形状の制御方法を確立することを目的として研究を遂行する。平成22年度は、均質基板上で蒸発する液滴の流動解析コードの構築を行った。 基板上に置かれた液滴の蒸発挙動を数値解析するため、本解析では密度比の大きい気液二相流を取り扱うことが可能である二相流格子ボルツマン法を用いた。液滴蒸発に関しては、二相流格子ボルツマン法で用いられる2つの粒子速度分布関数のうち、気液二相の違いを表す粒子分布関数に対して、気液界面領域と周囲気相における粒子分布関数の差を用いてモデル化した。また、均質基板の濡れ性は、基板と液滴との間に付着力を与えることで評価した。構築した解析コードを用い、親液性および疎液性基板表面での液滴蒸発挙動を解析した結果、接触線挙動に関して既往の実験結果と概ね良好に一致する結果が得られ、本解析で用いた蒸発モデルの妥当性が示された。しかしながら、本解析では、液滴内部および周囲気相との熱伝達を考慮せずに液滴表面で液相体積が減少するものとして蒸発を疑似的に表現している。そのため、液滴内および周囲気相の温度場を計算し、液滴表面の温度を推算することにより、蒸発速度を定量的に評価する必要があると考える。
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