最終年度である24年度はウイルス殻の加工に力を注いだ。脳心筋ウイルス(EMCV)のカプシドタンパク1Dにあるループ1は粒子の外側に突き出ていることがわかっているため、その部位にFLAG配列を挿入した。カプシドL-1D(FLAG)をヒト細胞抽出液由来試験管内タンパク質合成系で発現させ、粒子を形成させた。そしてFLAGカラムで精製し、透過型電子顕微鏡で形態を観察したところ直径10nm程度の非常に小さな粒子が形成されていた。野生型のEMCVは直径30nmであるため、正常な形をとっているとは言い難かった。そこで野生型のL-1DとL-1D(FLAG)を7:3の割合で発現させ、ところどころにFLAGが突き出るように工夫した。そうすると大きさも30nm程度の粒子ができた。そこでFLAG配列の近傍にRGD配列を挿入した。RGD配列は腫瘍細胞で多く発現しているインテグリンに結合するため、腫瘍細胞をターゲテイングすることができる。現在粒子を形成させているところである。 一方、E型肝炎ウイルスのカプシドタンパクORF2を利用するためにORF2を大腸菌で発現させ、カルシウム存在下でインキュベートすると粒子が形成された。この粒子は透過型電子顕微鏡観察で直径30nmの典型的なE型肝炎ウイルス様形状を呈していることがわかった。ORF2のN末はカプセルの内側、C末はカプセルの外側に向いている事がわかっている。そこでC末にRGD配列を入れて粒子を形成させた。そして、できあがった粒子をメラノーマ細胞とインキュベートすると効率良く細胞に取り込まれることがわかった。カプセルの内側に量子ドットを挿入するため、市販の量子ドットを粒子形成の際に共存させた。すると量子ドットを内包する粒子が2-3割の確率で形成された。これはN末に存在しているヒスタグと重金属との相互作用に拠るものと考えられた。
|