船上計測された船体応答量の履歴データ(オンボードデータ)からその船の実海域性能を確率統計的に推定するための確率モデルを、独立成分分析とノンパラメトリック確率密度関数の理論に基づいて構築した。さらに、その確率モデルと船体応答の物理モデルの関係を、波と船体応答のシステム応答理論に基づいて示した。 オンボードデータは相互に相関を有するデータであるが、これは独立成分分析により統計的に独立な成分に分解できる。この成分にノンパラメトリック確率密度関数を適合させ、再び結合することにより、もとのオンボードデータを表わす多次元の確率密度関数が得られる。すなわち、遭遇海象と船速低下の相関、船体運動と構造応答の相関などが多次元の確率密度関数で表わされる。言い換えれば、この密度関数は、海象、船速、運動、構造応答の統計的なバランス点を表している。このバランス点により船の実海域性能が具体的に表され、工学的活用が可能となる。 確率モデルの検証データとして、航海シミュレーションによる擬似オンボードデータと日本造船研究協会(第217研究部会)で収集された約1年間の実船オンボードデータ(コンテナ船:北太平洋航路)を利用した。航海シミュレーションプログラムは、遭遇海象下で船体に作用する定常力の釣り合いから、船速と推力と各種の短期船体応答量を実際の航路に沿って算出するものである。提案の確率モデルの検証のために、これらのプログラムとデータの整備を行った。検証の結果、海象と船速低下量の関係については、提案の確率モデルの妥当性を示すことができた。
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