わが国の海運界で顕在化しつつある日本人船員の質的・量的不足に対処するために、次世代の優れた船員を確保することが緊急の課題されている。安全運航を支える技術力の確保とその伝承の観点から将来に不安を残しており、船員の技術力向上の必要性がある。しかし、海技の習得には長い年月が必要となる上に団塊の世代後の技能伝承が危惧され、その対応策が強く求められている。このような社会的背景の下に機関員の熟練技能育成問題に応えるべく取り組んでいる研究である。 機関員の保全業務の一つに聴覚や触覚などの感覚器官による点検作業がある。この業務では機関員が巡回点検時に受けた音や振動を過去に記憶したものと較べて判定しているが、判定基準となる過去の記憶は個人差がある上に曖昧さがあり正確性に欠けるため機関員に正確な情報を与えて感覚記憶を補完する保全支援システムが必要である。 本システムを構築にはディーゼル機関の運用によるデータ収集分析と診断を行うためのアルゴリズムの開発、並びにシステムのハードウェアの製作が必要になるが、計画初年度となる平成22年は点検ポイントの調査とその場所における計測を実施し、保全データベースの基礎的な構築をめざした。具体的にはディーゼル機関を連続運転しながらその放射音と振動を長期間に渡って採取し、その間のデータを分析することにより正常テンプレートを作成した。そのテンプレートを検証するために、機関弁間隙を変更して日常と運転状況の違いを人為的に作り出し、基準値±0.2mmの範囲内で変更して実験した。正常時のデータ840ケースで作成した正常テンプレートを用いて判定した結果、正常データでは94.5%が正常と診断され、弁間隙基準値外の異常データでは94.4%が異常と判定され、判定アルゴリズムの構築は達成することができた。そこで、次年度以降のハードウェアを含めた総合的なシステム構成に向けて検討している。
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