わが国の外航海運は、グローバル化する世界経済の中で熾烈な国際競争を強いられた結果、日本船籍の減少と共に日本人船員も最盛期の1/20以下に減員している。このような状況下でわが国の経済や国民の生活を遅滞なく支えるためには国際海上輸送の確保は様々な方向から検討をしておく必要がある。その一つに日本人船員の量的確保と技術水準確保が挙げられている。本研究は船員の海技技術の育成と船員に対する技能の支援を目的に進めている研究である。 船の安全運航にとって、機関の保守点検は非常に重要な業務の一つである。機関は機器監視システムによってモニタリングされているが、機関員の巡回点検も機関の保全にとって大きな役割を果たしている。例えば部品の折損などに起因する異常音や異常振動を感覚器官により判定することも多い。しかし、この判定には習熟した実技経験が必要となるが乗船の機会が減少した現在では難しい。そこで本研究では感覚量の記憶を保全支援システムのデータベースに蓄積しておき、異常音などを現場で再生して比較することにより機器の状況を把握させたり教育させたりするものである。 感覚量をデータベース化する保全情報解析装置のアルゴリズムが完成したので、ディーゼル機関の燃料噴射圧を種々に変更して実験を行い、その時の放射音と振動を収録し格納した。また、弁間隙量も変更して実験を行った。実験の変更要素は燃料弁噴射圧、及び弁間隙であるが、それぞれの音と振動データをFFT分析し、多変量解析を実施したところ重相関係数0.9程度の値で回帰でき、音響と振動の物理量にはそれぞれの情報量が存在することを確認した。次にデータベース内の音響と振動を再現して、異常時と正常時の状況が判別できるかどうかの判定をアンケート形式で回答させたところ90%以上の確率で分別でき、感覚記憶力もシステムで補完できることが分かった。
|